どこにでもないちいさなおはなし-5
「ねぇ、おじいちゃん」
少し尖った耳を持った白い陶器のような肌、それもとてもみずみずしい肌を持った、小さな幼い少年は、古ぼけた何代も前からずっと、使われてきたと、分かる、揺り椅子に座った、顔中皺だらけの男性に話しかけた。
「なんだい」
歳のせいか舌っ足らず口周りで、しかし、とても優しい声で老人は少年を見て言った。
「イヴ……様っていうのは、なんなの?」
年端もいかない少年の無邪気な問いに、瞳に、老人は静かに揺り椅子を動かして思案する。
じっと、その動きを見ながら、急かす事無く少年は待った。
暖炉の前で寝ていた犬が起き上がり、欠伸をひとつして、その場を去る。
何か、それできっかけを掴んだように、老人は口を開いた。
「イヴ様というのはね。あの、五大国家の一つキメール・ド・イヴ国にある、雲のような綿飴のような宮殿に、ずっと、住んでいる御方なんだ」
少年は静かに聞いていたかと、思うと、急に膨れた顔を作った。
それから、不満を含めた声音でこう言った。
「そんなの、この世界の端から端までみーんな知ってるよ。そうじゃなくって……」
言葉を遮るように、老人は続ける。
「あぁ、言いたい事は分かる。だがな、世界にはまだ分からない事もたくさんあるんだ。イヴ様もな、その、ひとつなんだよ。……ジャック、お前には難しいかな」
皺だらけの顔をもっと皺だらけにして、笑った。
少年はもちろん満足していなかった。
けれど、なんとなく分かった。
ただ、特別なだけ、なのだと。
ポケットから出てきた数々の品を見て、上等な上着を着たカエルと、あかむらさきのワンピースの少女は、少し困っていました。
二人には出てきた品に見覚えはなく、それが何を意味するのかも、全くわかりませんでした。
「カエルさんのコインと、わたしのコイン。形や大きさがすこし、違うみたい」
先に口を開いたのは少女の方でした。
二つの硬貨を片手ずつに取り、両手を開けます。
掌にのった硬貨は確かに、すこし、違っているようでした。
「わぁ、本当だ。これは、どういうことだろう。僕が、考えるなら……」
上等な上着を着たカエルは黒い小さな目をきょろきょろさせながら考えます。
少女もそんなカエルをみて、一緒に考えはじめました。
「僕が考えるなら、これは、違う国のコインなんじゃ、ないかな」
案外と、早く、カエルは答えを出し、少女を見ました。
「どうして?」
まだ考えがまとまっていない少女は、上等な上着を着たカエルの、その考えに、素直に疑問を口にします。
上等な上着を着たカエルはまた暫く考えてから答えました
「違う形をしている、から」
少女はもっともな答えだと、思い、大きく頷きました。