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どこにでもないちいさなおはなし
【ファンタジー 恋愛小説】

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どこにでもないちいさなおはなし-48

「君の事が大好きだよ」

その言葉にリールが立ち止まり振り返りました。マイティがそっと頭を撫でて先へ進むように促しました。

「そう、彼女に伝えたかったんだ。それなのに俺が声を掛けた瞬間に女の子は抱いていた俺を落とした。それで汚らわしい恐ろしい物を見るように睨んで家に逃げ帰った」

リールはまたゆっくり歩きはじめました。でもその小さな胸は張り裂けそうなくらいドキドキしていました。

「彼女の両親は俺を呪われた生き物だって思って、サーカスに売った。きっと高く売れたんだろうね。最後まで麻袋に入っていたから彼女にも会わなかったし、どこへ連れて行かれたかもわからなかった。サーカスでは酷い扱いを受けたよ。食べる物は野菜の端切れだったし、眠る時は猛獣の檻の中の小さな檻だった。逃げ出す事も出来なかった。なんたって当時はまだ小さなただの兎だったから」

目に涙が浮かびました。リールは視界がぼやけて目の前の石に気づかず転びそうになってしまいました。けれど宙に身体が浮いたと思ったらふわふわの手が自分をしっかりと抱きしめてくれていました。マイティはリールを抱きしめたまま言いました。

「ある日サーカスはキメールのイヴ様の前で興行をする事になったんだ。団長は大喜びで俺に司会をするように言った。とにかく、俺は珍しかったから。その時の事は今でも覚えてる。見たこともない位綺麗なお城で、見たこともない位綺麗なネーリア様が居て、甘いお菓子を貰って、いよいよサーカスの演目が始まって、俺がいつものように声を張り上げて挨拶をした時だった」

マイティはリールを抱いたまま歩き始め、リールはマイティの顔をじっと見つめました。頬に流れた涙の跡に風が冷たく感じました。

「ネーリア様はすぐにサーカスを止めて、俺まで走りよって抱きしめた。そしてこう仰ったんだ。『やっと会えたわ』って」

リールの頬に冷たい何かが当たりました。見上げるとマイティの片方の目から涙が零れていました。そっとリールは手を伸ばすと毛を弾いて流れる涙を掬い取りました。

「それでネーリア様は今の俺の姿にしてくれた。だから他の奴らと一緒に生活が出来るようになったし、役目が与えられた。各地を歩いてネーリア様に話して差し上げるっていう仕事が。……リール、俺はね、幸せだったんだ。ネーリア様が大好きだった。だから、リール、君の事も凄く大事なんだよ」

リールはたまらずにマイティに抱きついていました。ふわふわの毛が頬にあたり、すこし動物臭いそこに顔を埋めました。

「みんなは先に行ってしまったんだから、泣いていいんだよ。俺はリールにとってそういう存在で居たいんだ。ネーリア様が俺にとってそうであったよう。それにマイラもジャックもネーリア様が大好きだったんだ。だから君の事も本当に大事で一緒に居るんだよ。だから我侭だなんて思わなくて良い。君は君のやる事をやるために俺達を利用して良いんだ。嫌になったらそう言って良いんだし、いつでも甘えて良いんだ。それが許されるくらい君は……可哀想なんだよ」

マイティは抱く手に力を込めました。リールの身体が小刻みに震えて自分の肩のあたりの毛が湿っていくのを感じていました。ふと前に目をやるとマイラとジャックとティアンが二人を待っていました。マイティは三人に首を振ると空いた手で先に行くようにと合図を出し、三人は頷くとそっとその場を去りました。


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