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どこにでもないちいさなおはなし
【ファンタジー 恋愛小説】

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どこにでもないちいさなおはなし-45

「大丈夫かい?いま、治療をしてあげるから」

マイラは目を閉じると小さく呪文を唱え始め、両手に小さな蝶が集まりはじめます。
するとそれを見た人魚は大きく首を振ってマイラの手を掴みました。

「良いんです、良いの。私だけ助かっても……」

人魚の目に涙が浮かびました。マイラは口を固く閉じ、呪文が止まると蝶は薄くなり消えていきました。

「私だけ?じゃあ、君はもしかしてラーの……?」

裸の上半身に自分の上着を掛けながらマイティが尋ねると、人魚は頷きました。マイラもマイティも何も言えませんでした。
イヴはようやく目を覚まし、ジャックの手を握ってやってきました。

「……私に会いに、来たんでしょう?」

そっと倒れるように地面に伏せている人魚にリールはしゃがんで話しかけました。人魚はそっと顔を上げリールの姿を見るとほろほろと涙を流しました。

「イヴ様」

蚊の鳴くような声で人魚は呟きました。リールはそっと人魚の濡れた傷だらけの手を握ると自分の頬にそれを持っていき人魚の手を頬に当てました。

「頼りないかもしれないけれど、イヴ・ネーサです。……こんなに冷たくなるまで泳いで、こんなに傷だらけで」

リールの頬に当てられた人魚の手がやんわりと暖かくなっていきました。

「イヴ様、どうか、これをお受け取りください。私はラーの国の城に仕えていました、リーンと申します」

リールに握られていない方の手で首から掛かっていた小瓶を外し、イヴに差し出しました。リールは黙って人魚の手を話、両手でそれを受け取りました。中身は白い小さな真珠が数粒入っていてコルクの蓋の周りにはボロボロになった紙で封がしていました。その封は金色に弱く光っていました。

「これ……は」

リールの表情が固くなりました。人魚は小さく頷いて何かを言おうとしましたが、出たのは言葉ではなく血でした。

「お、おいっ、しっかりしろ」

マイティが地面に倒れる人魚の背を支えました。その身体は氷のように冷たく、震え始めていました。リールが小瓶から目を離して人魚を見ます。

「……ありがとう。とても助かりました」

小瓶をその場に置いて、そっと人魚の頬を両手で包みました。人魚はゲホゲホと咳を繰り返しその度に血を吐きました。リールの洋服にもその血が飛びましたが、誰も気にしませんでした。リールはそっとその人魚の額に口付けをし、涙を流して言いました。

「おやすみ。もう、怖くないわ。もう、誰もあなたを虐げる事もないわ。ありがとう、リーン」

リールが額から口を離すと人魚の目玉がガラス玉のようにゴロリと二つ落ちました。顔は真っ白になりマイティの触れている部分から灰色に変わっていきました。

「……リール」

マイティが信じられない顔をしてリールを見ました。リールは洋服の袖で涙を拭うと小瓶を大切そうに自分のポケットにしまいました。


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