どこにでもないちいさなおはなし-24
「……さぁ」
カチャンと、また、あの小さな銀の鍵で扉の鍵を開けると、イヴは扉を開けてジャックを招いた。
ジャックはいよいよ逃げられないと覚悟したが同時にイヴは本物かもしれないと思った。
「お邪魔します……かな」
独り言のように小さく言うとイヴの横を通り扉を抜ける。
薄い布を手で避けて中へ入り思わず立ち止まり息を呑んだ。
中は半円型で天井からはいくつものすばらしい細工のランプが下がり、銀の細工が施された椅子が2客と同じ細工のテーブル、鏡台も銀でもちろん細工が施されていた。白い絹に惜しげもなく細やかな刺繍を施された三つ折りのついたての向こうには、木の細工が美しい大きなベッドが見えた。
銀の細工が施された椅子には青い髪の浅黒い男性が座って、ジャックを見つめていた。
「やあ。すまなかったね」
声をかけられ、ジャックは、はっとした。
「あ、いえ。あの……」
目を白黒させたまましどろもどろに返す。
イヴは扉の鍵をかけてから、ジャックに歩み寄った。
「さあ、お座りになって?」
ジャックの肩に手をかけ、ゆっくりと椅子へ誘導する。
されるがまま椅子に座り、男性を見た。
男性はさっと立ち上がりイヴに席を譲った。
イヴはジャックを見る目とまた違う安心した目で男性を見て、椅子に座る。
「私はお茶を入れてこよう」
イヴの肩をぽん、と、軽くたたいて、男性はその場を去った。
どうやら踊り場の裏が小さな給湯室のようになっているらしく、ベッドの方から回り込むように、歩いていった。
残されたジャックは男性を目で追ってから目の前のイヴへと視線を移す。
イヴは頭をまたすっと下げた。
「本当にすみません。貴方がそんな扱いをされていると、知らなくて。今日夢で知って、慌てて迎えに。頭は平気ですか?」
「は、はい」
驚いてそれ以上ジャックは口に出来なかった。
聞きたい事はあったのに、本当にたくさんあった。
「分かってます。全部お話します。……だから、どうか。途中で投げ出さずに、いてください。そして、私に協力してください。全てをお話した後に断られたら、貴方を殺さなくてはいけません。そして……、私も、世界も滅びてしまうのですから」
イヴはまっすぐにジャックを見つめて、伝えた。
その声音には恐ろしいほどの真剣さが含まれていて、ジャックは全身に鳥肌が立った。
けれど、イヴのその言葉に、大きく頷いた。