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どこにでもないちいさなおはなし
【ファンタジー 恋愛小説】

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どこにでもないちいさなおはなし-25

 「で、なんでぇ、今度は少女趣味に走ることにしたのかよ」
煙草と酒でつぶれた声で手前のテーブルの薄汚い男が入ってきた男たちに声をかけました。
わっと後ろのテーブルに座る男たちが笑い声を上げます。
リールとティアンはその声にびくびくと体を震わせました。

「……まだ分からないのか?」
リールを抱えて走った男がマントをはずして言い放ちます。
店内の声がさっと消え嘘のように静まり返りました。

ティアンはまじまじと自分たちを攫った男たちを見ました。
皆、黒いマントで、茶色の髪をしていました。

「まさか……。そうなのか?そのガキ共が王が探してる奴か?」
最初に野次を飛ばした男が唾を飛ばしながら目を見開いて尋ねます。
店内の男たちの目つきが変わりました。
カードをしていた男も、手札をテーブルに置きました。
ウェイトレスにちょっかいを出していた男は、ウェイトレスを邪魔そうに突き飛ばしました。
ある者は剣に手をかけ、ある者は魔道書へ手を伸ばしました。

ぴりぴりと空気が張り詰めていくのがわかりました。

「王は子供が死んでいても良いと言っていた」

奥の方で歯が抜けて少なくなった老人が杖をローブから出して言いました。
リールを攫ってきた男は背後の仲間に後ろ手で合図をしました。
次の瞬間。
二人の黒いマントの男がそれぞれリールとティアンを抱きかかえたのを見て、一気に酒場の男たちが向かってきました。

二人はあっという間に黒いマントの中に隠れ、また、離れ離れになりました。
外では剣が合わさる音や、魔術の言葉を唱える声、悲鳴、怒号。
全てが入り混じり、リールは耳を塞いだまま、泣き叫びました。
黒い男たちが勝っているのか、酒場の男なのか、それももはやわかりませんでした。




 マイラはゆっくりと髪を結い上げていた。
少しはだけた着物を直しもせずに、じっと、鏡だけを見ていた。
その奥に映る男を見ないようにした。

「おいおい。マイラ。オレとお前の仲じゃないか」

ひょこっと薄茶色のウサギ耳が揺れた。

リールとティアンを追い出した後、居なくなったか確認しようと外を覗いた所で男、マイティは居た。
にやにやと笑いながらフードを取る。
そしてどんっとマイラを店へと突き飛ばし、ドアを閉め、鍵をかけた。

「マイラ。久しぶりだな。ネーリアの庭で会った以来か?」
鞄を外し、そこらへ投げる。
マイラが体勢を立て直した時にはマイティは正面からマイラに抱きつく。

「やめておくれっ!」
かっと赤く顔を染めてマイラはマイティを突き飛ばそうとする。
けれど男の力には敵わず、無駄な徒労に終わった。
マイティはくすくすと笑いながらお姫様抱っこでマイラを抱き上げると、勝手に店の奥のマイラの部屋へと入っていった。


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