どこにでもないちいさなおはなし-21
リールとティアンは走って走って街の中心までやってきました。
そこには大きな噴水があり、冷たい飛沫を上げていました。
泳げそうな大きさに二人は淵へ手を乗せ水面を見つめました。
底には何枚もの硬貨が月明かりにキラキラと輝いています。
噴水の周りには屋台が出ており、大道芸人が踊りを踊っていました。
水面から顔をあげ、噴水の真中にあるオブジェを見ました。
それはくるくるとねじった木のような形にやじろべえのような物が数本ついて、風に揺れていました。
やじろべえの先には花のような形の物があり、そこから水が流れていました。
全部金属で出来ているようでした。
二人はしばらくそれを見つめ、ぼんやりとしていました。
リールはオブジェの中心に文字が彫ってあることに気づきました。
「ねぇ、あんなところに文字がある」
ティアンが着ている上等な上着を引っ張ります。
彼は目を細めてじっと見ました。
「あぁ、確かに。でも僕にはもう暗くて読めないや。君は見えるのかい?」
リールはティアンの上着から手を離し、淵に手を乗せなおし身を乗り出して顔を近づけました。
それでも距離はあるのですが、何とか読む事が出来ました。
「えーっと……『平和と水の象徴 ディアス・アラン 管理:ルルビー国』って書いてある」
「ルルビー……?」
リールが体を戻すのを待たずにティアンは考えはじめます。
「何か思い出したの?」
ティアンをじっと見つめて、リールが尋ねます。
「……うん。あまり、良くない気がするんだ。誰かにルルビーはだめよって、言われた気が」
ティアンは顎に手をやって考えます。
頭にかかっているモヤモヤが少しだけ晴れていくような気がしました。
「あっ、そうだっ!!ルルビーは力を持つ者しか生き残れないんだ。僕の乳母が言った」
ティアンの小さな瞳が輝きました。
リールは本当に驚いた顔をして、しばらく息を飲んでいましたがこう尋ねました。
「思い出したの?乳母って、だぁれ?」
ティアンはまた考えこみましたが、小さく頭を振りました。
「そんな事より、ここを離れないと。僕たちは、今この広場にいる誰よりも、弱いよ。」
リールははっとした顔をしました。
けれど、二人は気づいていませんでした。
見えない物陰に、すでに、危険がせまっていたことを。