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どこにでもないちいさなおはなし
【ファンタジー 恋愛小説】

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どこにでもないちいさなおはなし-22

 金色の蝶をマンダリン・ライラが空へ飛ばした夜。
それを向かいの路地の暗がりでじっと見ていた男がいた。

ぼろぼろの鞄をかけて、フードを深くかぶっていた。
ただそのフードの形が少し変わっていた。
頭の上に何か生えているように異様に出っ張っていた。

彼はじっと息を潜めて扉から出たマイラを見つめる。
そして、蝶が飛び立つのを見て、にやりと笑った。

マイラが蝶をすこしだけ見送り扉の奥へ消えてからも、男は蝶の行方を見ていた。

そうして少し特徴のある声でつぶやいた。

「……キメールの方か」

と。




 「……マイティ?気づいてるかい?」

白い蝶が飛び回る素晴らしく花が咲き乱れた庭園の一角。
東屋のような洋風の白い小さな建物で紅茶を飲みながら、マイラは目の前のウサギ耳の男に声をかけた。
マイティは小汚い格好ではなく、きちっとした正装をしてマイラの前で同じように紅茶を口にしていた。

「何をだよ。君の服装がいつもよりお金がかかってる事かい?それとも君の大好きなアイツがこの席に居ない事?ははーん、なるほど。わかった、その簪がラーの国の珊瑚で出来ていることだろう?」

マイティは早口でそう返す。
マイラはふふん、と、可笑しそうに笑いながら、聞いている。

確かにマイティが言うようにマイラがいつも好んで着ている着物のような服はいつもよりも高価な物だったし、簪もラーの国の珊瑚で出来ていた。
大好きな、という所は少し違うが、一人足りないことも事実だった。
けれどそんなことよりもっと大事な事を、マイラは思っていた。

「違うよ」

小さく首を振る。
マイティはいつもこうだ、と、心で思う。
本当は分かっているくせに、茶化すのだ。

「じゃあ何だい?」

その証拠にマイティの目は笑っていた。
満足げに。

「もうあたし達があれを受けてから何年も経つけれど、お互い、ぜんぜん変わらないってことさ」

マイティは「少し渋いな」と呟き砂糖を入れスプーンでかき混ぜていた。
けれどマイラの言葉でカチャン、と、スプーンをまわしていた手が止まる。

「あぁ、なるほど。その事か」
紅茶を見ていた目をマイラに向けた。
その目からは笑みが消えていた。




 ざあぁ…と、風が吹きました。
噴水の水が揺れ、水面が波立ちます。
キィキィ…と、オブジェが音を立て、びくっとリールとティアンがそっちの方を見た一瞬でした。

シュっと音もなく暗がりから男たちが現れ、二人を乱暴に抱きかかえました。
口を大きな手で塞ぎ、また、次の瞬間には暗い路地へと引き返していました。

あまりに一瞬のことで、広場にいたほとんどの人には何が起こったのか分かりませんでした。
ただ、最初から二人の存在を気にしていた人もほとんど居なかったのでした。


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