どこにでもないちいさなおはなし-12
「お嬢ちゃんの方はね、遠い、キメールって国の硬貨でね。一番高いものだよ。たしか、あまり流通されてない上に、国外に持ち出すのは禁止されてるはずさ」
ここをご覧、と、言わんばかりに机の上に置いて指差す部分には、確かに、文字が刻印してあり、見ようによっては、そうかいてあるのでした。
「それから、上着の素敵な君。……君が持ってるのは、もっと価値が高い。えーっと……」
長い銀髪の女性は机の引出しを開け一枚の茶色く変色しかけた紙を出しました。
「もう137年も前に滅びたリールーティアンっていう国の硬貨さ。金属に見えるけど、ね、これはガラスなんだよ。それも物凄く固くて、丈夫なんだ。……ほら、その左の棚の一番上、右から四番目のグラスもリールーティアンで造られたものさ。ただ、硬貨はだいぶ潰してグラスやなんかになったから、あまり現存してないんじゃないかね」
上等な上着を着たカエルと少女は長い説明に目をぱちぱちさせながら、棚や女性の顔を行ったり来たりさせていました。
長い銀髪の女性はまた煙管に火を灯し、口に運びました。
「……で?どうしたいんだい」
上等な上着を着たカエルと少女は、すっかり困ってしまいました。
そんなに価値がある物だとは、知らなかった上に、どうしたらいいのかなんて、さっぱりわからなかったのです。
第一、自分たちには記憶がないのだから、これをどうしたのか、なんて、まったくわからないのです。
上等な上着を着たカエルと、少女は、いつしか、涙が零れていました。
しくしくと、声も出さずに、ただ、泣いて、いたのでした。
そんな様子を見た長い銀髪の女性は、二人に合った椅子を出し、それに座るように促すと、二人が泣き止むまで、じっと、煙管を燻らせて待っているのでした。
ラーの国は夕刻だった。
すっかり夕日が落ちるのを見て侍女は思った。
こんなに綺麗な夕日が見れるのはいつまでだろう、と。
彼女は聞いていた。
誰も聞いてはいけないはずの会話を。
ただ、水差しを持っていっただけだったのに。
お盆を持つ手の震えは、もう、ずいぶんこうしているのに、止まらなかった。
頭に浮かぶのはたくさんの大好きな人だった。
伝えたいと、思った。
けれど、それは反逆罪だと、同時におもう。
手の震えは、いまだに止まらなかった。