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どこにでもないちいさなおはなし
【ファンタジー 恋愛小説】

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どこにでもないちいさなおはなし-13

 随分と長い事、小さな古い雑貨屋には、上等な上着を着たカエルとあかむらさきのワンピースの少女のすすり泣く声が響いていました。
香木の枝は根元の方まで燃え尽きて、机の上には灰が積もっていました。

長い銀髪の女性は何度も煙管を吸いなおし、分厚い帳簿を眺めていました。

上等な上着を着たカエルは水かきがついた小さな手で涙をふいて、顔を上げます。
そうしてあかむらさきのワンピースを着た少女を見ました。
少女も視線に気づき、涙を小さなハンカチでふきました。

「僕たちは、迷子なんです」

消え入りそうな声で上等な上着を着たカエルは、机に座る長い銀髪の女性に話しかけました。
とても小さな声だったので、聞こえないかと、少女は思いましたが、銀髪の女性は顔をあげました。

上等な上着を着たカエルとあかむらさきのワンピースの少女と長い銀髪の女性は、じっと、見詰め合いました。

「それで?どうしたいんだい?」

先ほどと同じように長い銀髪の女性は聞き返します。
それから、煙管を小さな火鉢へと戻し帳簿を閉じました。

「わからないんです」

答えたのは少女でした。
上等な上着を着たカエルも隣で小さく頷きました。

「何をしたらいいのかも、どこから来たのかも。誰なのかも」

少女の目に、また涙がたまりました。

本当は不安でいっぱいだったのだと、気づいたからでした。
上等な上着を着たカエルはそっと少女の背を撫でました。
まるで、大丈夫だよ、と、言っているようでした。

「難儀だねぇ……」

長い銀髪の女性はしばらく考えてこう呟きました。
それから、目を閉じて考えこみました。

上等な上着を着たカエルと少女はその様子をじっと見つめていました。
たまにしゃっくりをしながら。

香木の火が枝の根元の幹の部分に辿りついて、消えた頃、長い銀髪の女性は目を開けて言いました。

「今日は泊めてあげることにしよう。それから、その硬貨も相場よりすこし高い値段で買取ろうかね。それくらいならして上げれるけれど、あたしには、それ以上は出来ないよ。ただ、手伝う事はするからね。この街にいる間は、いつでもおいで」

少女と上等な上着を着たカエルは目を輝かせて、二人で抱きあって喜びました。
長い銀髪の女性は、店の奥の部屋へと、二人を案内しました。
小さな部屋でしたが、二人が寝るには丁度良い大きさでした。

長い銀髪の女性はオニギリと呼ばれる食べ物を作って二人に食べさせました。

少女と上等な上着を着たカエルは美味しそうにそれを食べ切ると、あっという間に寝てしまいました。
大きな毛布に二人で包まれて。

目を細めて長い銀髪の女性は見つめ、そっと、灯りを消して出て行くのでした。


二人が寝静まった後、長い銀髪の女性は、店内の机へと戻りました。
もう夜も随分と過ぎていました。


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