それは投稿小説を読んだ事から始まった。-1
「送信」
送信ボタンを押して小説が投稿された。これは、その小説を読んだ少女の物語。
「由貴起きてる?」
携帯の着信音で起こされた私が電話に出ると、明るい唯の声が響いた。
「うぅん。誰?」
私は頭がボーっとしたまま答えた。
「アタシ。由貴、わからないの。唯よ。唯。」
「なぁんだ唯か。」
「なぁんだとは何よ。」
ムッとしたような唯の声がした。
「ゴメン。ゴメン。で何の用?」
「今から、そっち行っていい?」
「別にいいけど....」
「じゃあ今から行くね。」
「うん、わかった。待ってる。」
私は電話を切り、着替えた。
「仕事はどう?もう馴れた?」
唯は私の部屋に入って、ソファー代わりのベッドに腰掛けて聞いて来た。
「まだ....覚えないといけない事が多くて....」
私はこの春から家の近くの会社で事務の仕事をしている。
「どんな仕事をしてるの?今は....」
唯はこの春から地元の大学に進学する。その為、就職した友達に色々聞いているらしい。
「今はほとんどが電話番。後は書類の整理。パソコンとにらめっこしてるか、電話に出ているかよ。」
「なぁんだ。何か楽そうね。」
「馬鹿な事言わないで。」
私はムッとして、言葉がきつくなってしまった。
「えっ。どうして?」
唯は不思議そうな顔をしていた。
「私だって初めは楽そうだと思っていたわよ。ところが電話一つとっても、言葉の使い方が間違っているとか、いちいち文句言われて.....それだけでも頭が痛いのに、馴れないパソコンの作業、頭がパニックを起こしそうになったわよ。一時は電話に出るのが怖かったわよ。」
私は早口でまくしたてた。唯は驚いたように、
「そんなに大変なの?陽子なんか、事務職で会社に入ったはずなのに、事務職でも現場を知っておかなければならないからと、工場に回された。と嘆いていたわ。由貴が羨ましいって言ったわ。」
「そうなの?どんな仕事でもそれなりの不満が出るのね。」
「仕事をするって大変なんだね。」
「当たり前でしょ。楽な仕事なんてあるわけ無いでしょ。」
私は自分に言い聞かせるように言った。
「ところで、そんな事聞くために、わざわざ此処にきたの?」
私は呆れたように唯に尋ねた。
「えっ、あ、忘れてたわ。ちょっとこれ読んでみてよ。」
唯はバッグから数枚のコピー用紙を取り出した。
「何それ?」
私が尋ねると、
「昨日インターネットを見ていたら、面白い物があったので、プリントアウトして来たの。はい、読んでみて。」
私は唯から渡されたコピー用紙に目を通した。
「それって....由貴の事だよね?」
「うん.....多分そうだと思う.....」
私はコピー用紙から目を離して、唯の顔を見つめた。唯は心配そうな顔で、
「変な事聞くようだけど.....ストーカーに.....」
私の顔を覗き込んだ。
「別に今のところそんな心配無いけど.....」
唯は安心したように、
「やっぱり結花姉ちゃんの言う通りか....良かった....」
唯はホッとしたような溜め息をついた。
「結花さんの言う通りってどう言う事?」
「あっあのね、アタシこれを見て、由貴の事が心配になって、結花姉ちゃんに相談したの。」
「結花さんに?」
「うん。」
唯は大きく頷いた。結花とは唯の二つ違いの姉である。唯とは幼なじみなので、私は結花さんに姉妹のように仲良くしてもらっていた。唯は由貴がストーカーの被害にあっているんじゃないかと心配になって、結花に相談したのだった。