それは投稿小説を読んだ事から始まった。-2
「結花姉ちゃんちょっといいかな?」
唯は結花の部屋のドアをノックして、声を掛けた。
「別にいいわよ。」
結花はレポートを書く手を止めて、ドアから顔を出している唯の方を見た。
「何?どうしたの?」
「ちょっと相談したい事があって....」
「わかったわ。部屋に入って、適当に座って。」
結花は優しく唯に声を掛けた。
「ありがとう。結花姉ちゃん。」
唯は部屋に入って、座った。結花は机の上を片付けて、唯の隣に座った。
「相談したい事って何?」
唯は結花に数枚のコピー用紙を手渡した。
「結花姉ちゃん。これ読んでみて。」
「これ何?」
「インターネットで投稿小説のサイトを見ていたら、由貴と同じ名前の登場人物が出て来て、気になったから、プリントアウトしてみたの。」
結花は唯からコピー用紙を受け取って目を通した。
「もしかしたら由貴、ストーカーの被害にあっているんじゃないかと....」
不安そうな唯が気になって、結花はもう一度小説を読んだ。
「その可能性が全く無いって事は無いけど.....唯は変な小説の読み過ぎよ。きっと。」
「えっ?」
唯は結花の顔を上げて、
「どういう事?」
不思議そうな顔をした。結花は笑顔を唯に見せて、
「読書好きな唯なら、ここに何が書いてあるかわかるでしょう。ここに書かれているのは、年下の女の娘を好きになったんだけど、負い目があって告白出来ないから、貴女の幸せを祈らせて下さい。っていう小説でしょ。」
「それはそうなんだけど....」
唯はまだ少し不満そうだった。
「誰かに片思いしている人が、全てストーカーになってしまう訳じゃ無いでしょ。」
「うん。それはわかっているけど....」
「それに、由貴ちゃんに何かしようという人なら、そういう小説を投稿する事も出来た訳でしょ。」
唯はイマイチ納得出来なかったけど、結花がそう言うので自分を納得させた。
「そうだよね!!」
やっと唯に笑顔が戻った。結花も笑顔を浮かべ、
「でも、一応由貴ちゃんの話も聞いておいた方がいいわよ。」
「うんわかった。」
「という事なんだけど....どうなの?」
私は唯に全て話した。確かにこの投稿小説は実際あった事に近い。だとすれば、この投稿小説の作者も想像出来る。でもその人がストーカー行為なんかするとは思えない。その人の全てを知っている訳では無いが....
「小説のネタに私を使っただけかもね。」
「案外そうかもね。」
唯は安心した様に笑顔を浮かべて、
「じゃぁ、もしもこの小説がその人の本心だとしたらどう思う?」
私は想像してみた。彼が私の事を好きになるなんてあるわけ無いけど....。
「ちょっと嬉しいかも..」
私はその時締まりの無い顔をしていたのかもしれない。唯は呆れた様に、
「由貴、何ていう顔をしているのよ!その人ってオジサンでしょ。オジサン!!何考えているのよ!」
「確かにそうだけど....誰かに好きになってもらうっていう事は嬉しいでしょ。唯だって!!」
「そうだけど....でも....相手によるけどね。」
「それもそうね。」
唯の言葉に納得してしまった。
「実際どうなの?」
唯の言葉に、
「.....考えてみた事も無いけど....ただ.....」
「ただ....何?」
「悪い気はしない.....そんな変な人じゃ無いから.....好きになられても...私に変な事をしないという条件付きだけど.....」
「彼氏としては?」
「そ....それは.....」
唯は大笑いして、
「もしもの話よ!もしもの話!本気にしないでよ!本気に!」
「唯のバカ!からかうの止めてよね!」
「ゴメン。ゴメン。」
「もう....唯ったら....」
しばらくの沈黙の後
「案外本気だったりして.....」
「えっ?」
私は唯の顔を見た。唯は冗談とも本気とも取れる表情で、
「その人由貴の事本気で好きだったりして....」
そう呟いた。私は聞こえないフリをした。また唯にからかわれそうで.....。