幼年編 最終話 別離-6
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迷宮を駆ける三人。ヘンリー、リョカの脱出に気付いたらしく、魔物達があらぶりはじめる。
「くっ! この忙しいときに!」
ヘンリーは得意の操鞭術で次々に魔物達をなぎ倒す。
「唸れ! バギ! いけ、ブーメラン!」
リョカも負けじと真空魔法、ブーメランで蹴散らし、活路を開く。
「いたぞ、こっちだ!」
「もっと応援をよこせ!」
だが多勢に無勢、劣勢に変わりはなく、次々と集まる魔物や賊に徐々に追い詰められる。
「どうする? 今更ごめんなさいと謝ったところで許してもらえるともおもえんな……」
「ええ。だけど、最後まで諦めません」
二人はデールを庇いながら賊と対峙する。
「二人とも、僕がここに残ればせめて……」
「そう簡単に物事が進むと思うなデールよ」
「ですが、もう……」
この場を逆転する方法などありえない。たとえリョカが魔法を使えようと、兄の鞭が鋭いとはいえ、体力は無尽蔵ではないのだから。
「はぁ!」
空を切る鞭の先端。しかし、それは不意に差し出されたしなやかな杖にまきつく。こうなると単純な力比べになり、大人と子供、多数と一人ではすぐに結果も見える。
「ふふ……、万事窮すか……」
「く、バギ!」
虚空に放たれる真空刃、しかし、それも標的を手前に霧散する。風の無い屋内では精霊も集められない。せめて魔力で増幅させることができれば多少は抗えたのだが、疲弊したリョカにそれはできない。
「ぐっ! ぐわ! なんだ、一体!」
膝を着きかけたところで、悲鳴が響く。さらに甘い臭いが漂い始め……、
「まさか、ヘンリー、デール、この空気を吸わないで!」
何事かと思いつつ口をマントで覆う二人、リョカも外套で口を覆う。
優位に立っていた賊たちは突然のことに混乱しており、その空気の不穏さに気付かず……、一人、また一人と眠りに落ちる。
「おーい、リョカ! ヘンリー王子! 無事でしたか!」
そしてパパスの声がした。
「父さん! 父さん!」
無事を知らせようと声を張り上げるリョカ。倒れた男たちにかまいもせずに駆け出す。
「にゃおーん!」
最初に飛び出してきたのはガロン。彼はリョカの足元をぐるぐる走り回る。
「ガロン! シドレーも……」
「ああ、よかったで坊主。いやいやいや、全然よかない。つか、この親父も追われる身やで」
「え?」
父の顔は険しく、簡易詠唱のべホイミをかけつつ、ヘンリー達を促す。
「うむ。正直なところ再会を喜ぶ時間も惜しい。今はとにかくここを出る必要がある」
「わかりました」
リョカもそれに頷き、父の来たほうへと走り出す。
難解な迷路もガロンが匂いを覚えていてくれたので難なく出口に向かうことができる。
追いかけてくる賊も立ちふさがる魔物もパパスの剣に切り伏せられた。
「貴様の父は本当に強いな!」
パパスの活躍に目を見張るヘンリー。リョカはそれに力強く頷く。
「もうすぐですぞ!」
徐々に向かい風が強くなりはじめ、外の空気の匂いがしだす。
だが……、
「そこまでですよ……」
先ほど聞いた声の主が、出口を前にして立ちふさがる。ローブに身を包む魔物は不敵に微笑み、通せんぼする。
背後には鎧を身にまとった魔物と灰色の馬の魔物がいた。それらはこれまでの雑魚とはみるからに格が違う。