幼年編 その五 ラインハットへの旅路-2
「そう……ふうん……」
その答えにアニスはただ笑って……、どこかちょっと潤んだ瞳になりながら、頬に手を当ててリョカを微妙な薄笑いで見ていた。
嘲るような視線ではないものの、何かこう、リョカを圧迫するものがあり、前に不意打ちでキスをされたときのことを思い出すようなものだった。
「あ、あの……」
危険というわけではないが、リョカは自然と後ずさりを始める。
「どうしたの? リョカ……」
しかし彼女はそれを許さず、挑発するかのように距離を詰める。
顔と顔が近づき、また唇が触れそうになったとき、リョカは逃げずにただ固まった。
キスの感覚は好きだった。アニスと初めてキスをしたときも、アンとキスをしたときも、ビアンカに触れたときも……。
「熱でもあるの? 顔が赤いよ?」
アニスは心配そうに言うと、リョカの前髪をかきあげ、自分のおでこをつける。
彼女は視線をあげて目をあわせようとしない。だが、リョカは眼前にある大人の、それも美人といえるアニスの顔を間近に見て、さらにおでことはいえ身体が触れることに興奮が高まる。
――僕、どうしちゃったんだろ……。
下半身の異常はさらに強まる。硬さが痛いくらいで、服がこすれるだけでもびりびりする。
「ねえ、お姉さんには少しお医者さんの知識があるんだけど、ちょっとみてあげる?」
ようやくアニスがおでこを離したと思ったら、なにやら思案気な様子で腕組みをする。
「え?」
アニスはリョカを強引にござの上に座らせると、自分もその前で正座する。
「ほら、悪質な風邪だったりすると困るし……ね? 上着脱いで……」
診てあげるというわりには、それは真面目な医療行為をする医者のそれに見えないわけで……。
「は……はい……」
それでもリョカは年上のお姉さんということと命の恩人であることに逆らうことはせず、素直に外套を脱ぎ、医者に見せるように上着を脱ぐ。
年頃の少年にしてはなかなか鍛えられているリョカの身体だが、最近は絵の仕上げなどでインドアなためか色白であった。そのせいか割合脆弱に見え、思い切り息を吸うとアバラ骨が浮かび上がる。
「へえ……、ふうん……」
アニスはリョカの上半身を見つめながらため息を漏らす。
「あっ……」
おもむろに伸びた彼女の指先が触れたとき、リョカは自分でも信じられない、か細い高い声を出していた。
「どうしたの?」
「いえ、なんでもないです……」
「ふん。じゃあ続けるね……」
冷たい指先が腹を弄る。それは診察というよりは単純なイタズラというべきか、弧を描いたり、胸元に触れたりとやりたい放題。
「んっ……くっ……え……と……」
アニスの指が彼の右胸を触り、薄ら寒さで勃起した乳首を撫でた頃、リョカは目を瞑っていた。
「どかした?」
「えと、なんか、ジンジンします……」
「どこが?」
「わかんない。アニスさんに触られているところが……」
「そう。リョカは男の子なのに乳首を触られるのが好きなのね……」
「そんなことないです……」
「嘘……。だってほら……」
そう言って彼女は彼の敏感な部分を指で優しくつまむ。
「あっ!」
瞬間電気が身体に走ったリョカは、腰を引いて前傾姿勢になる。
「ね?」
目を開いたリョカの前には勝ち誇ったように笑うアニスがいた。