投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

やっぱすっきゃねん!
【スポーツ その他小説】

やっぱすっきゃねん!の最初へ やっぱすっきゃねん! 444 やっぱすっきゃねん! 446 やっぱすっきゃねん!の最後へ

やっぱすっきゃねん!VO-5

「よかったぞ、澤田」

 1塁ベンチ前。戻った選手や控えも含めて、全員が佳代を讃えた。

「あ、ありがと…」

 そんな状況に慣れていない佳代は、ぎこちない笑顔で応える。

「このまま、行けるところまで頑張ってみろ」

 永井の声。いつもは厳しい口調なのに、目の前の永井からは、そんな雰囲気は微塵も感じられない。信頼を寄せた態度だ。

「はい、やってみます!」

 元気に答える佳代。
 しかし、言葉とは裏腹に、頭の片隅では不安が湧き上がる。

(本当に、この調子で行けるんだろうか…)

 ブルペンではバラバラだったフォーム。それが、下加茂のアドバイスをきっかけとして、本来のボールが投げられた。
 だが、これは付け焼き刃だ。何故、投げられたのかは正直云って解っていない。

(これじゃ、いつ、狂うか分かんない…)

 佳代は、今すぐにもブルペンで投げ込みたい思いに駆られていた。

 2回の表、青葉中の攻撃。バッターは5番の一ノ瀬から。
 左打席に入ると、ベンチを見た。

(ヒッティングか…)

 永井はバットを振る仕草をするだけ。一ノ瀬は、バットを少し短く握った。

(初球から狙うか)

 葛城からの指導が頭をよぎる。“好球必打”は攻撃のセオリーだが、彼は、どんな良い球だったとしても、初球は振らない傾向のためにチャンスに打てなかった。

 そんな時、葛城が云った。

 ──当たらなくてもいいから、バットを振りなさい、と。

「身体が縮こまってしまってるから、初球を見逃すのよ。空振りでもいいからさ。振れば、変な力みが無くなるわ」

 一ノ瀬は、云われた事を実践した。
 変化球はもとより、ワン・バウンドしたボールでも、躊躇なくバットを振った。
 最初は何ら変化が無かったが、何度も何度も繰り返すうちに、身体の力みが徐々に消えていくのを覚えた。

 そこからの効果は早かった。

 練習試合では2割そこそこだった打率も、今では1割近くアップをもたらした。
 そして、5番を任された。一ノ瀬は改めて、葛城の慧眼に感謝した。

「プレイッ!」

 武蔵中のキャッチャーは一ノ瀬を見た。
 打ち気満々で、両腕に力が入った構え。彼は、変化球を要求した。

 ピッチャーはサインに頷く。

(さあ来いッ)

 両の掌が、グリップを絞り込む。ピッチャーの動作に合わせて、右足がステップを踏んだ。


やっぱすっきゃねん!の最初へ やっぱすっきゃねん! 444 やっぱすっきゃねん! 446 やっぱすっきゃねん!の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前