やっぱすっきゃねん！Ⅲ⑯-4
「バッター・ラップ！」
再びバッターが打席に入った。達也は、その動作を目で追った。
足の位置は先ほどより後ろへ。そして、バットをわずかに短く握っている。
（狙いは真っ直ぐか…）
「プレイッ！」
主審が、試合再開をコールした。
達也の右手が、複雑に動く。
（外角低め…）
除き込む佳代は頷くと、セットポジションの体勢になった。
（力を抜いて、リリースに集中する…）
心の中で呟いた。
右足が動いた。スムーズな動作から、左腕を振り抜いた。
（ヨシッ！）
再び、達也のミットが高い音を鳴らした。
「ストライク・ツーッ！」
主審が右手を上げた。
バッターは、１球目と同様に振ってこない。
（こりゃ、分かってても打てねえな）
受ける達也が、そう認めるほど完璧な出来に思えた。
「小細工無しだ」
３球目。サインは同じ外角低めの真っ直ぐ。
佳代は投げた。バッターは、１度もバットを振ることなく、見逃し三振に喫した。
「ワン・アウトーッ！」
「オオーーッ！」
達也が、人差し指を突き立ててグランドに掲げた。すると、内、外野の選手８人が、グラブを上げて答える。
１塁側ベンチの控え選手全部も、精一杯の励ましをグランドに放つ──意識の統一。
レギュラーも控えも関係無い。皆がひとつとなって、戦っていた。
結局、１回の裏は無得点に終わった。
佳代は、三者連続三振という、今までにない最高の立ち上がりを発揮した。
「なんか…すごい」
スタンドから見つめる有理は、思わず呟いた。
「３人とも見逃しなんて、初めて見た…」
隣の席の尚美も、驚きを隠さない。
「今まで、佳代が投げてると不安だったけど…」
「…何だか、怖いわ。今日の佳代ちゃん」
二人の中には、“別の不安要素”が、インクの染みのように広がった。