やっぱすっきゃねん！Ⅲ⑯-10
佳代が走った瞬間、キャッチャーは腰を浮かせた──捕ったボールをすぐにセカンドへ投げる構え。
しかし、放たれたボールを見て我が目を疑った。
まるで、バッティング・センターでもお目にかかれないような打ち頃のボールだった。
いくら秋川が緊張してても、こんな球を見逃すハズもない。思い切りバットを振ると、心地よい金属音を残して、打球が左中間──レフトとセンターの間へ飛んだ。
「いったァ！」
打球の方向を見た佳代は２塁を蹴る。長打と確信したからだ。
だが、３塁の一ノ瀬は違った。彼は、先ほどのセンターが見せた守備から、“捕られるかも”と思ってタッチ・アップの構えで行く末を見守っている。
打球が落ちてくる。レフトがセンターが、懸命に落下地点へと走った。
なおも落ちてくる。レフトは諦めて、ボールの後ろに回り込もうとする。が、センターは諦め無い。身を屈めて地面と水平に跳ねた。
グラブを目一杯に伸ばす。しかし、ボールは無情にもグラブの先で弾んだ。
「ヨシッ！」
思った通りの展開。佳代は２点先制だと思ってスピードをさらに上げた。
その時だ。
視界に一ノ瀬の姿が飛び込んできた。
（な、何でここにいるのッ！？）
思いもしないシチュエーションは、人をパニックに陥れる。
（このままじゃ、一ノ瀬抜いてアウトになる）
後ろのランナーが前のランナーを抜くと、後ろがアウトになる。
佳代は、スライディングで逃れようとするが、勢いのつき過ぎた身体は３塁で止まらない。
「ヤバい！」
左手がベースを掴む。腕に、勢いのすべてが掛かった。
「ぐっ！」
嫌な痛みが肩に走った。
何とか３塁で止まったが、佳代は身を屈めて左肩を押さえていた。
「アイツ、怪我したんじゃ…」
不安気な目がグランドを映した。
「下加茂ッ！」
直也の声がベンチに響く。呼ばれた下加茂は、バネに弾かれたように立ち上がる。
「ブルペン行くぞ！用意しろ」
「は、はいッ」
尋常じゃない直也の態度に、下加茂はタダ事じゃないと感じ取ったのだろう。慌ててプロテクターを着けだした。
直也は永井の元に駆け寄った。