幼年編 その四 妖精の里-11
「大丈夫ですわ……」
だが、それは軽い真空魔法で弾かれてしまう。
一体何が大丈夫なのかわからないリョカだが、それは数秒と経たずに理解できた。
氷の槍を構えた女王が空中で、フローラにまったく届きそうに無いところで止まっているのだ。
「な、なんだ! バカな!」
なんと氷結が氷柱をなし、女王の体を捉えているのだ。
「本当は氷の中に留めてしまおうと思ったのですが、意外とスピードがありますわね?」
フローラは女王が動けないことを確かめもせず、近寄ると、さらに氷の精霊を集めだす。
「ぐ、まさか、氷の、私は氷の女王だぞ! なんで氷に!? まさか……私が……!」
断末魔の悲鳴を上げることも出来ない速度で氷漬になる女王。完全に氷柱に閉じ込められた彼女はもう身動きが取れることはないだろう。
「嘘……、だって氷の女王だよ……」
「氷の女王を名乗られましても氷を使役できるわけではないでしょ? 風邪を引かないようにお気をつけ遊ばせ……は、は、くしゅん……」
寒さのせいか可愛らしいクシャミをするフローラは照れたように鼻をかむ。
だが、彼女がそんな可愛らしい存在とは誰も思えないわけで……。
**――**
「フローラさんすごいね!」
ソリを引くリョカとザイルとガロン。乗るのはフローラとベラの女の子二人組み。
「いーえ、これは本当のことですけど、私一人ではどうにもなりませんでしたよ?」
「そうじゃな。まあ俺の炎のおかげかな?」
リョカの肩に止まるシドレーがボソッと言うと、ベラがむきになる。
「何が俺の炎よ! 全部このフローラ大先生のおかげじゃない! ああん、私は最初からずっとやれる子だって信じていました! 貴女を見たときからきっと名のある大魔道士の卵だと!」
目をきらきらさせるベラにフローラは落ち着いてと手をかざす。
「ええ、気付いておられたようですので種明かしをしますが、あの場で火の精霊を集めるなんて無理です。けれど、シドレーさんが炎を吐き出したおかげで私、そこに集まってきた精霊を誘導しましたの。それに、リョカさんや皆さんの奮闘のおかげで魔法を練ることが出来ましたわ」
その言葉にリョカとベラはへーと頷く。
「それと、あれはメラじゃなくてメラミだな? つか、おじょうちゃん、無詠唱で使えるんな?」
「ええ」
「なんでメラミって言わないの?」
「その方がハッタリが効きますでしょ? 正直、あの状況で女王を倒すことは不可能と思っておりましたの。女王が私達を城に閉じ込めようとしたとき、そこにヒントがあるかもと思いまして……、それで氷の柱に封じ込めようとしましたわ。もちろん、彼女に氷を打ち破る力がありましたらお手上げですけどね……」
「んでもま、俺が火を噴けばまたあのメラミが使えるんだけどな……」
ぼっと炎を噴いてみせるシドレーだが、ベラは調子に乗るなと頭を叩く。
「でもすごいや。魔法って本当に強力だね! 僕もちゃんと勉強しないと……」
「ええ、ですが、魔法には脆弱性があります。いくら威力がありましても、それを練るまでの時間があります。そして、その間に攻撃されたら私のようなか弱い者など倒されてしまいます。それらを守る戦士というのは、やはり戦いにおいて重要なポジションなのですわ」
「ふうん……」
「ですから、リョカさんも魔法に拘るのではなく、守ることも勉強することも重要なのです」
「うん。わかったよ。ありがとう。フローラさん」
「はい」
にこりと笑うフローラにリョカはやや照れてしまう。
「ね〜、講釈もいいけど、お前らもちゃんとひっぱってよ〜」
そんな中、一人黙々とソリを引っ張っていたザイルは泣き声をあげていた。
「ま、おまんが余計なことしなければ今回のこともないわけやし、罰だわな……」
「お願いだよ〜! 手伝ってよ〜」
「ははは、がんばろうね、ザイル!」
リョカはそう言うと、綱を肩から背負い、ソリをぐんぐんと引っ張った……。