幼年編 その三 レヌール城のお化け退治-1
幼年編 その三 レヌール城のお化け退治
「リョカ、行ったぞ!」
「はい、父さん!」
草原を走る赤いねずみ。それは普段台所をちょろちょろするものなどではなく、人間の赤ん坊くらいの大きさがあった。
リョカは今回の旅の前に新調してもらったカシの杖を地面に突きつけると、ソレを足場に大きく飛ぶ。
目標を失ったお化けねずみはきょろきょろと辺りを見るが、上空からの影が大きくなり、銅製の剣の腹で頭蓋をしこたま打ち込まれる。
「ギピィ〜」
お化けねずみは頭を抱えてそそくさと逃げる。すると劣勢を感じ始めたほかのねずみも逃走を始める。
「ふむ……。なかなかやるようになったな。リョカ」
「はい、父さん」
自身の成長を認めてもらい、リョカはとても嬉しそうだった。
パパスは剣に残る油と血、毛を拭うと、大柄な両刃の剣をしまう。
「何故命を助けた?」
「え? それは……、可愛そうだから……」
「そうか……。そうだな」
父はグリーンワームを二体、スライムに触手の生えた亜種であるホイミスライムを一体屠っていた。
その亡骸は弔われることもなく草原に散り、餌を待つカラスがわさわさと集まっている。
リョカは自分が「かわいそうだから命を奪わない」ということが、暗にパパスを責めているかのようで、それが心ぐるしかった。
「リョカ。今はそれでいい。お前が心優しい子に育ってくれて、父は誇りに思うぞ」
そう言って頭をクシャクシャとしてくれる父。力強く、優しさを持ち、また厳しさを併せ持つ父のそれが嬉しかった。
最近、パパスはリョカを積極的に戦闘に参加させていた。
特に強い魔物がいないことのもそうだが、リョカの成長をパパスは見誤っていたと認識していた。
息子は強い、いや強くなれる素質がある。
呪文も簡易とは言え治癒魔法、真空魔法を使えるようになっている。
だが、一番のそれは己を守り、さらには敵すら守ろうとする戦い方だ。
先ほどのお化けねずみもそうだ。闇雲な突進など、カシの杖でやわらかい腹を突けば手間も掛からずに絶命させられたであろう。けれど、彼は空中から壊れかけた銅の剣の平たい部分で一番堅いであろう頭蓋を殴った。哀れな剣は折れたが、ねずみは一目散に逃げていったわけだ。
アクロバティックな戦い方などサーカスに任せておけばよい。重要なのは「そうすれば命を奪わずに済む」という戦い方を即座に実行できることなのだ。
「よし、先を急ごう……」
ただ、心配なのは、これから先彼が守るべきもの背負いながらもその戦い方で生き延びられるかということ。リョカが生き残ったとして、悲劇を背負うのならば、それは父と同じ苦しみを持つことになる……。
パパスはそのことが心配だった……。