幼年編 その三 レヌール城のお化け退治-5
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「なあ坊主。あのな、あの猫なんだけど……」
道具袋で揺られるシドレーは腕で枕を作りながらリョカに囁く。
「ねえ、どっちのほう?」
だがリョカはそれどころではなく、後からついてくる男の子をいらいらしながら待っていた。
「うんと、あの一本杉を目指したところなんだ」
平均的な体力しかない男の子にリョカを先導するのは無理というもの。おおよその場所を聞いたリョカはシドレーを袋から取り出す。
「そう。わかった。ねえシドレー、この子をアルパカにまで連れて行って!」
「ええけど、んでも、あの猫は……って話は最後まできけー!」
走り去るリョカの後ろにむなしくシドレーの声が響いた……。
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暗い……というよりは黒い場所。一筋の明かりも見えない。
城が見えるころは月明かりが見えた。しかし、正門をくぐったところで突然の雷がなり、激しい雨音がし始めた。
そのまま逃げるように城へ入ったビアンカを待つのは浮遊する幽霊。
人の姿を模したそれはどういう理屈か黒の場所でもよく見えた。
それは彼女の頭を掠めるように飛び交い、ある場所へと誘導していた。
その場所とは……おそらく「箱」の中だろう。
「よい夢を……ラリホー」
暫く喚いたところで息苦しくなり、次第に……眠くなった……。
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リョカがたどり着いたとき、月明かりは群雲に隠れていた。
朽ちかけた城は外壁がところどころはがれ、たまに骨格がむき出しになっていながらも、今もなおそこにいた。
――ここにビアンカが!
リョカの畏れるものに幽霊はない。彼は正門へと走り、そのドアを蹴る。しかし、それはびくともせず、まるで魔法による封印されているかのようで、彼の侵入を妨げた。
――くそ!
リョカは心野中で毒づくと、周囲を伺い始める。
どこかに別の入り口がないかと歩き回ること数秒、裏手に螺旋階段を見つけた。
ここを登ることで活路があるかは定かではないが、それでも焦る気持ちが後押しし、リョカを急がせた。
飛び飛びの階段を超え、リョカは走る。そこに何が待ち受けているのかなど恐れもせずに……。
螺旋階段を上りきると、内側に入れそうなドアを見つけた。リョカは遠慮なくそのドアを蹴破り、中へと向かう。
かすかな物音がした。
魔物だろうか? 違う。こちらに対する敵意が無い。言うなれば好奇心が近いだろう。
リョカはその気配を無視し、さらに奥へと抜ける。
すると再び外へ出る。バルコニーだった。注意深く見ると通用路があり、そこへ行くほか無いと、リョカは進んだ。
もしかしたら誘われるまま、誘いに乗っているのではないか? そんな焦りが出始めた頃、何かが視界を横切った。
「誰だ!」
それはリョカに気付かれたことに慌てて走り出す。通用路を走り、角を抜ける。この先がどうなっているのかはわからないが、それほど逃げ足が速いようにも見えなかった。
どんどん距離が縮まる。次の角を抜けたところできっと追いつく。リョカはそう思いながら走った。