幼年編 その三 レヌール城のお化け退治-14
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「いつまで寝てるんじゃい、ボケナス!」
あくる朝、というよりは昼過ぎ、リョカはシドレーに起こされた。
「え? シドレー? 大丈夫だった?」
「何が大丈夫だ、ドアホ。お前こそ寝すぎで脳みそ溶けてんじゃないか?」
昨日の夜遊びの件、パパスは不思議と何も言わなかった。
同じくお寝坊だったビアンカとは洗面所であった。彼女は珍しくストレートに髪を下ろしており、またスカートを穿いていた。そして頭には例の赤いヘアバンド。リョカはそれを見るだけで嬉しくなった。
「お、金髪娘、今日はいつになく乙女チックだな」
「なによ。私だっていつまでもジャリじゃないのよ。わかる?」
「おうおう、わかるで。今日の昼飯はトマトリゾットやな!」
「うっさい! このセクハラオヤジ!」
「?」
一人やり取りのわからないリョカは疑問符を浮かべていたが、例の約束を思い出し、急いで公園を目指す。ビアンカは例のティーセットを持って……。
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公園の広場には子供達が集まっていた。そして例の男の子も居り、リョカ達を見てぱっと顔を輝かせる。
「どうせ嘘だろ? お前らがお化け退治なんてさ!」
「そんなことないわ! これが証拠よ!」
ビアンカは銀のティーセットを掲げる。その一品は子供でも値打ち物だとわかるのだが、だがソレがお化け退治とどう関係するかといえば疑問。
「これはレヌールのお后様が愛用していたティーセットよ! どう? これをお化けの王様からもらってきたんだから!」
「……ねえビアンカちゃん。それだとまだお化けの王様がいるってことにならない?」
「あ……」
しまったという顔になるビアンカだが、キンタとサンタはそうではないらしい。むしろお化けの王様と語り合ってきたであろう事実のほうが驚きである。
「キンタ、サンタ、みんなも聞いてよ。昨日ね、ビアンカさんは本当にお城に行ったんだ。僕見たんだ。で、怖くなって旅人さんに話して……案内した。でも僕は怖くなって逃げたんだ。それなのにこの二人はしっかりと、レヌール城に行って、このティーセットをもらってきたんだ。それに昨日はお化けキャンドルの明かりも見えなかった。多分二人がやっつけたんだよ! それに魔法だってそうだよ。キアリーにホイミ。皆も見たろ? 僕の傷を一瞬で治したんだ。だから、だから……」
早口で捲くし立てる男の子に、皆そうかもと頷き始める。そして劣勢に立たされつつあるキンタとサンタはたじろぎ、仕方なしに例の猫を差し出す。
「わかったよ。お前らは嘘ついてない。なら俺らも約束守ってやるよ。おら、こんな猫やるよ!」
二人は首輪につながれた猫を差し出し、ビアンカもそれを受け取る。
「よかったね。猫ちゃん」
「よ、よおし、そんじゃ俺らもカクレンボすっど! おら、皆隠れろや!」
どうにも居心地の悪いキンタとサンタは急にそんなことを言い、集まっていた子供達を蹴散らす。
年長組みはその様子をにやにや見ていたが、年少の子供達が木々に紛れるに連れ、それにあわせて散っていった……。
残されたのはビアンカとリョカと猫だけだった……。