仔猫の診察-4
「でも…
でもね、高山さん、あなたが汚れてしまったわけではないじゃない!
悪いのはそいつらよ?
世の中の男、全てがそんな悪い人間じゃない!」
月並みな励まししかできない自分が、恨めしかった。
目の前で、美しい少女が泣いて打ち震えているというのに。
こんな時には…
「!…せんせ…!」
ぐっと彼女を引き寄せ、頭を胸に抱え込んだ。
背中をゆっくり撫でる。
人間を信用できなくなったら、ひとのぬくもりを与えるに限る。
「安心して。
今は男嫌いでも、いつかはイイ出会いがある。
あなたはキレイだし、心も優しくて、マジメじゃない?
とっても…魅力的よ?」
最後の一言は、言わないでおこうか迷ったが、結局口にしてしまった。
「先生…うれしいです…そんな風に言ってくれて。
…でもわたし…あれから、男を、好きになれないんです…
その…ある悩みがあって…」
このコは、レズビアンだというのか。
それは、考えられないことではない、あんな事をされては。
「悩み…っていうのは?」
人の性癖をとがめることはできないので、話を促した。
「それは…その…処女膜のことなんです…。
あいつらに…無理矢理入れられて…すごく痛かったし…
血も止まらなくて、ナカが…今どうなっているのか…」
処女膜…やはり思春期の女の子は気になるのか。
抱いていた頭から手を離し、そのまま頬に当てる。
「本当にツラい想いをしたのね。
…3年前って言ったわよね?
それなら、傷はだいぶ回復していると思うけど…若いんだし。
なんなら、わたしが医師として、診察しましょうか?」
わたしは、だいぶ軽く提案したつもりだった。
しかし…
「!!」
パッとあげた高山みほの顔は、真っ赤に染まっていた。
「いやだ、そんなに恥ずかしがることないわよ。
わたしは本物の産婦人科医なんだから」
思わずうろたえてしまうほどの潤んだ瞳が、こちらを見つめてくる。
「大丈夫よ、相手は医者でしょ?
それに、悩み相談のついでじゃない!」
耳まで染めて、美少女は俯いている。
しょうがない、最後のカードだ。
「さっき、高山さん、男は愛せないって言ったよね。
一人だけ秘密を言うのはフェアじゃないから、わたしも言うわ!
わたしも、ね…バイセクシャルなのよ」
また、パッと顔を上げた彼女は、驚きの表情で満ちていた。
「ほら、これでおあいこ!」
わたしは、にっこり笑ってみせた。
「安心して、ドクター葉山に、診察を任せてくれない?」
…彼女は、やっと、決心した表情で、頷いてくれた。
もう授業が終わりに近づいていたので、いつ"診察"をするか打ち合わせ、残り時間は雑談をして済ませた。