仔猫の診察-2
わたしは、心を決めた。
「よし!今日の授業は、取りやめ!
今日は高山さん1人しかいないし、進めちゃったら他の生徒に悪いしね!」
…果たして今後、他の生徒がまた現れるかは、微妙な所だが。
「先生…いいんですか?」
「いいのいいの!」
高山みほの表情には、だいぶホッとした色が出ていた。
わたしは、教室の一番前のど真ん中に座る彼女の、右隣に座った。
「それより、随分悩んでるみたいね?話してみる?
一応わたし、助産婦の資格も取ってるから、悩み相談にも乗れるわよ?」
そう、助産婦の仕事の一つには、性のカウンセリングのようなものがある。
もちろん、普通の看護師だって、患者の心のケアは仕事の一部なのだから、助産婦にだって、同じような仕事を求められる。
ただちょっと、範囲が限定されるだけだ。
「葉山先生…ありがとうございます…。
でも…何から話していいのか…」
「そっか…突然ごめんね?
話しにくかったらイイのよ?
別の時でも、わたし相手じゃなくても」
「そんなんじゃ、ないんです!」
茶色い瞳をあげ、慌てたように口を開く。
さらり、と栗色のストレートヘアが、肩をすべった。
わたしの髪は、硬めのまっすぐな黒髪で、しかも今はボブにしているから、ちょっとウラヤマシイ。
「こんな話、先生にだから…聞いてもらいたい…」
「…え?」
「あっ、いえ…なんでもないんです!
忘れて下さい…」
高山さんの声は、だんだんとかすれていって、また俯いてしまった。
「そんなに緊張しないで。
んもぅ、カワイイなぁ、高山さんは!」
今度は、明るく促してみた。
それで心を決めたのか、彼女は、ゆっくりと薄いピンク色のくちびるを開く。
「…わたし…男嫌い、なんです…。
だから、今日の授業の男女交際の話…ちょっと身構えてしまって…」
「そっかぁ…確かに1対1で話す雰囲気じゃなかったよね…。
何か、問題があるの?
トラウマとか、悩みとか…」
「はい…トラウマも、悩みもあります…。
トラウマの方は、もうどうでもいいんですけど」
高山みほの幾分かすれた声は、どうでもいいようには聴こえない。