援助交際-5
「さっきの電話、聞いてたよね?」
「・・・もう帰らない、とか言ってたな。あれか」
こくん、と東宮は頷いた。
「うちさ、昔からパパとママ喧嘩ばっかしてて。前はお姉ちゃんいたんだけど、去年から働く様になって出ちゃったから、ひとりぼっちなんだ」
淡々と書かれた文章を読み上げる方に言っていたが、決してその間俺の目を見る事は無かった。
こんな子供をよくもあしらえたものだ、俺というダメ教師は。
「家にいても全然会話なんかしないし、たまに話しても喧嘩ばっかだからさ」
そういえばさっき、電話から東宮以外の声が聞こえた。
「なんかもう嫌になっちゃった。これから先、笑って一緒に暮らせるのかなー、はははっ」
東宮の乾いた笑いが耳に心地悪く残った。
いけない事だったが、俺はその東宮の横顔に思わず胸が高鳴っていた。
おかしいだろう、友達に近い感覚とはいえ、教え子をそんな対象として・・・・
しかも家族と喧嘩したばかりで傷付いてる時に、落ち着け。飲み過ぎだ。
自身をダメだと自覚していたが、これは流石にダメだとかいう以前の問題だろう。
「ねえ、先生」
「ん?何だ、欲しいのか」
急に振り向いたので思わず酒を勧めてしまった。
「違うよ、バカ。ダメ人間」
そうだ、笑い飛ばせ。
お前の担任は、お前を一瞬でも女として見たんだぞ。
東宮はぐす、と鼻をすすり、さっきよりは多少腫れがひいてきた目を見せた。
「・・・エッチ、しない?」
親指だけを折った右手を上げて、にこっと唇を曲げる東宮。
「は?はははは、はっはっはははは!いやあ参ったな、お前がそんな冗談を言うとは」
何故家族と喧嘩した後で、偶然傍にいた担任に、交際をもちかける気分になるのだ。
頭にもう二文字つく方の交際を。
・・・しかし、気持ちは分からないでも無かった。
実は破局した直後はプロの女の方で鬱憤を晴らしていたので、財布が寂しくなってからあまり金のかからない酒に替えたのだ。
「本気にした?」
「んなわけ無いだろ、阿呆。お前、なんか慣れてる様な言い方だったな」
「えーホント?初めてだよ」
目元だけは笑えてなかったが、やはり初めてだったか。
はっきりいっていい趣味の冗談じゃない。
でも、東宮はそんな事でも気分を紛らわせたいんだろう。
そうでもしなきゃ遣り切れない程、寂しいんだろうな・・・・
「あっ・・・」
ぽつ、と額に冷たい物が当たった。
わざわざ見上げて確認するまでもなく、次から次へと小さな水の矢が落ちてくる。
「やばいね、雨だよ。先生傘持ってない?」
「無い。うん、こりゃあちょっとまずいな」
バケツの底が抜けた様な凄まじい雨だ。
どこでもいい、凌げる場所は無いのか。本当にどこだって構わない、濡れなければ・・・・