三人の男たちの冬物語(短編3)-3
私は女性の前で跪き、脚を舐めさせられているというのに、私のペニスは、まるで生き返ったよ
うにひくひくと勃起し始めている。会社のこと…家を出た妻のこと…すべてを失った私の頭の中
が真っ白になり、その中で忘れていた何かがあざやかに蠢き始めていた。
ふと、女の白くむっちりとした太腿の付け根に視線が吸い込まれていく。黒い絹糸が妖しい模様
を描いたように靡いた繊毛が、薄い下着の中に蠱惑的に耀いている。私は、無意識にふらふらと
その女の太腿の内側へ吸い寄せられるように頬を触れたときだった。
ビシッー
…あうーっ… 女の振り下ろした乗馬鞭が鋭い音をたて、私の脇腹を襲う。肌にヒリヒリと痛み
が広がっていく。
…もっ、申し訳ございません…と、私はとっさに掠れた声をあげる…ふれてはいけなかったのだ。
女がいいというまで、私は女の肌に一切触れることがゆるされていなかったのだ。
女のハイヒールの先端が私の唇にねじ込まれる…どうしようもないスケベな豚だわ…女が私を睨
め付けながら罵る。
その侮蔑する言葉に煽りたてられるように私は舌を尖らせ、ハイヒールの尖った靴底を舐め
あげる。女に罵倒されながら、背中をふるわせ、女の肌を愛撫するかのように光沢のあるエナメ
ルの表面に頬ずりするのだ。
ふと、妻のことが脳裏に浮かんでくる…。
妻は渋谷に小さな雑貨店を以前からもっていたが、喫茶店で待ち合わせた場所に、妻があらわれ
ることはなく、離婚届けを私に持ってきたのは、赤く髪を染めた店員の男だった。
色白でハンサムだったが、どこか陰気な感じがした。
「…ダンナさんだよね…アキコさんがあんたに会いたくないってね…というわけで、オレが来た
ってわけ…知ってるよね…オレとアキコさんができてるってこと…」
黒いシャツとジーパンをはいたその男は、ガムを噛みながら、陰気に顔を歪めながら言った。
私は男に妻のことを問い詰めることはなかった。問い詰めることもできなかったのだ。おそらく
アキコとのあいだにずっと感じていたすきま風が、そうすることを遠ざけていたような気がする。
アキコが家を出てから、あの男とアキコの裸体が重なる夢にうなされた。胸がふさがれるような
思いに苦しくなり、眠れない日々が続いた。アキコは、こんな男に抱かれているのか…夢の中で、
男に抱かれるアキコが私を笑っているような気がした。