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凪いだ海に落とした魔法は
【その他 官能小説】

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凪いだ海に落とした魔法は 2話-6

「全員のメルアドは分かるか?」と僕は訊いた。
「アドレス? 直接話さないのかよ」
「文明の利器を使おう。僕が名前を出す必要もなくなる」

菊地の携帯電話からそれぞれのメールアドレスを受け取った。全部で27人。27人? 意外と交遊関係の広い奴だ。

「どうする気だよ」
「まずは菊地からそれぞれにメールを送ってくれ。期末テストの問題を知りたくはないかって。知りたいのなら次の休み時間までに返事をくれと。余計な質問は受け付けない。他に誰にこのメールを送ったのかとか、聞かれても無視するんだ。YESかNOかだけを聞いて欲しい」
「分かった」

菊地が全員にメールを送ったところで予鈴が鳴った。僕は教室に戻り、鞄を取ってから廊下に出た。
「おい。授業は?」後ろから菊地の声が聞こえた。
「やることがあるんだ」僕はそう言って屋上に向かった。


人目に付かない屋上で僕はひとり、携帯電話のカメラを使ってテストの問題用紙を撮影していた。
誰でも簡単に情報を電波で運ぶことの可能な時代だ。鞄の中身を誰かに見られる危険はあっても、携帯の中身まで見られることはないだろう。証拠を隠滅するにしても紙媒体よりずっと楽だし、何より、手渡しすることなく商品を届けられるという利点がある。

次の休み時間にはまた菊地と落ち合った。
「結果は?」
「23人から返信がきた。結構、みんな必死なんだな」
「上々だ。じゃあ、次は代金の受け取りだ」
「前払い?」
「当然だ。僕に取っては顔も知らない相手だ。いくら位なら払えそうな連中かな」
「そうだな。俺の知ってる限りじゃバイトやってる奴は二人しかいないよ。その他はみんな部活やってる」
「じゃあ、その二人は5千円で。それ以外は一教科3千円からいってみよう。値切りには応じてもいいけど、半額以下にはならないように。君の腕の見せ所だ」

値段が決まると、さっそく集金。ここでも菊地に協力してもらい、代金の請求をしてもらう。「なんだか嫌な役目だなあ」と彼は愚痴りながらもその役目を手際よくこなしてくれた。自分がすでに共犯者であることを自覚しているのだろう。

三時間目の休憩時間に、屋上でまた落ち合う。
「9人が降りたよ。完全に怪しんでたね。あれは」
僕らの他に人影はなかったが、菊地は極力声を潜めてそう言った。
「最後まで乗ってくれたのは14人か。予想以上の成果だ」

誰かが途中で抜けるだろうことは最初から予測していた。それでも14人という人数は僕の見込みを上回っていた。世も末だ。

「誰か告げ口しないかな」

手にした千円札の束の触感が急に臆病風を吹かせたのか、彼の口調は弱々しかった。

「そうしない相手を選んだんだろ? 自分の人選だぞ」
「――そうだけどさ」
「ならば」と僕は言った。
「君が誰にも言わない限り、露呈することはないよ」

僕は送信先が分からないように、あらかじめネットから取得しておいた携帯電話のサブアドレスを使い、問題用紙の画像を添付して送信した。文字が読める程度の画質で撮影したデータの数は、一人分でも相当な量だった。


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