噂と記憶-1
古賀祐子からの相談を受けてから一週間近く経ちました。
その後、古賀祐子が私に相談を持ちかてくる事はありませんでした。
古賀祐子も学校を休んだりはしませんでしたが…。
授業中、休み時間を問わず私をジッと睨みつけたり。
私が話しかけても逃げていってしまうだけでした。
そして、その頃。
クラスの女子たちの間である噂が広がり。
その噂が私の耳にも入ってきました。
その噂とは…。
古賀祐子さんがレイプされたと言う物でした。
誰にとか。
何処でとか。
詳しい事は判りませんでした。
当然ですがデマだと言う声も多かった様ですが。
どうやら本当だと言う感じで噂は広がっていました。
私はその噂を耳に挟んで以来…。
私も居ても立っていられずに。
クラスでも大人しい部類に入る女子をひとり。
放課後、無人の教室に残しました。
女子は顕らかにオドオドと動揺していました。
「ちょっと聞きたい事があるんだけど？」
私は大人しいその子を緊張さすまいと笑いかけました。
な…なんですか――？
その子は訝しげな瞳で私の顔色を窺っています。
「いえ…ちょっと変な噂を耳にしたから…」
私はあくまでも優しい教師であり続けます。
噂って――？
とぼけるつもりでしょうか…その子は何も知らない様な顔をしています。
「古賀さんの事なんだけど…」
私の言葉にその子の顔色が変わりました。
「本当なの？」
その子は俯いて答えません。
ただ…その沈黙こそが噂の真実性を物語っている様でした。
「話してくれないかしら？」
依然として沈黙。
「悪い様にはしないから…ただ力になりたいだけなのよ」
この言葉も届かない様です。
私も黙り込んでしまいました。
その子をジッと見つめてしまいます。
そんな私の視線が気になるのでしょうか。
その子はチラチラと上目遣いに私の方を盗み見ています。
ふぅ…このままではらちが明きそうにありません。
「誰に？」
私は少しカマをかける様な行動に出る事にしました。
その子はまた俯いたまま固まっています。
「クラスの男子？」
その子の少し落ち着きが無くなってきました。
「田辺くん？」
その子の身体がピクッと震えました。
「違うの？」
し…知りません――！
その子が動揺を隠せずに声を荒げました。
そんな様子を見ていると…。
やっぱり！事実なの！？
私も動揺してしまいそうでした。
私は自分の部屋に戻ってくると…。
「ふぅぅ…」
服を着替える事もせずに、ベットに座ると深いため息をつきました。
なんて事でしょ。
田辺くんが古賀祐子をレイプしたなんて。
絶対に信じていないのに…。
絶対に信じられる話ではないのに。
心がザワザワとざわめいて仕方ないのです。
頭もズキズキと痛んできます。
こめかみをギュッと押さえました。
「うっ！」
窓から入って来る黒い影――フラッシュバックです。
頭の痛みはキリキリと強くなってきました。
私の上にのしかかる黒い影――これもフラッシュバック。
「ぁぁぁ…」
あまりの痛さに私は思わずか細い悲鳴を上げてしまいます。
そして…。
私の上で田辺くんが下品に顔を歪めていました――もちろん、これもフラッシュバックでした。