投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

恋愛小説
【純愛 恋愛小説】

恋愛小説の最初へ 恋愛小説 54 恋愛小説 56 恋愛小説の最後へ

恋愛小説(5)-4

「でもよかったなぁー。木村さん、やるときはやるんやん?」
「なんの話?」
「誕生日パーティもくろんでるとは」
「あぁ。それか。でもそれは、やる時以外はやってない様に聞こえるけれど、それで間違ってないんだよね?」
「でもひーちゃん、やっぱり木村さんはやる時にしかやってない気がする」
「彼女が目の前にいるのに、酷い言われだね」
「いいんです水谷くん。私、そういうシンジ君が好きなんですから」
僕は奇妙な立場にいることを説明しない訳にはいかないだろう。こんな風に村田さんは、毎回突然ノロケを爆発させる。知らないうちに恋する乙女の顔になって、よくわからない妄想世界にトリップしてしまうことが多々あった。そして傍らには僕を好きだという女の子が二人いる。この状況は、というより僕の状況は、いったいどうすれば正解に行き着くのかがまったくわからない迷路の様な体裁を取り繕っていた。
「いやーん。また知香ちゃんノロケー。もう聞き飽きたー」
「でもいいですよね。結局、元鞘なんですから。あー、羨ましいなー。ね、ひーちゃん」
「う、うん。そうだね。そうかもしれない」
この葵ちゃんの台詞は、ただ単に同意を求めているだけでは収まらない様な気がして、僕は毎回曖昧な返事をすることしかできない。下手に意見を言ってしまえば二人の内どちらかを傷つけることになるし、だからといって村田さんのノロケ話を止めるほど、僕の度胸は座っていない。




事態が急展開を見せたのはその翌々週のことだった。学園祭が終わり、当たりに祭り後の気だるい感じが漂っていた十一月も半ばに入った頃。僕は図書室で一人で本を読んでいた。テストも近いということで、周りには勉強している学生がたくさん見受けられる。参考書を開き何かを必死で書き込む学生を見ていると、僕はなんだか別世界に潜り込んだアリスの様な気分になった。僕はテスト勉強が嫌いで、とくにテスト前日でも参考書を開くということはしなかった。べつに普段からそんなにサボタージュしている訳でもなかったから、ここまでのテストは大体パス出来ていた。
「先輩、ここ隣いいですか?」
一瞬、フラッシュバックの様な記憶が次々と現れ消えた。声のする方向を見ると、桜井さんが立っていた。
「君はいつも僕が本を読んでいる時に現れるね」
「すいません」
「いや、責めているわけじゃないんだ」
「はい、わかっています」
桃色のトレーナーに濃い緑色したスカート。紅いふちの眼鏡の奥に、大きな眼が開いていこちらを見ていた。いつか見た時計をはめていて、手にはやはり、何冊かのノートを抱えていた。するりと僕の隣に座り、そして何も言わず何かを熱心にノートに書く桜井さん。まったく。あの時と同じだ。
「どうしたの?」
「はい?」
「いや、僕に何か話しがあって来たんじゃないの?」
「どうしてわかったんですか?」
「さぁ。どうしてだろうね」
僕は読んでいた村上春樹の「スプートニクの恋人」を栞を挟まず閉じた。きっとその栞を頼りに同じページを開くと、僕は今日の事を思い出すに違いないと思ったからだ。
「私、最近別れたんです」
「うん。知っている。君の元彼氏から聞いたよ」
僕はあえて“元”の部分を強調して、そう言った。うねる様な幻視感が、僕を襲う。
「知ってたんですか?」
「うん。知ってた」
「……なにも、言わないんですね?」
「僕がいったい、なにを言うべきなのかな?」
「すみません」
「や、君を責めているわけではないんだよ。ただわからないだけだったんだ」
僕はもう動揺することは無かった。夏季キャンプ以来、いつか言わなければならないと何度もシュミレートして来たのだ。どんな関係にも、終わりが来る。そのことに対して、僕はどんな疑いも持つ事はできない。夏季キャンプの夜、花火が開くのを見て僕は密かに決心をしていた。どこかのタイミングで、僕はこの恋に決着をつけなければならないと。僕に持てる荷物は、あの二人で今の所いっぱいなのだから。


恋愛小説の最初へ 恋愛小説 54 恋愛小説 56 恋愛小説の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前