嘘つきな I LOVE YOU-1
―――人を忘れられないのは、出会った瞬間を覚えてるからだって誰かが言ってた……。
アイツをあきらめられないのも、きっとあの時のアイツを忘れられないからだ…。
桜吹雪の下で、見上げた横顔がキレイすぎたから…。
「お疲れさまでした〜♪」
PM5:30 PCの電源を切って席を立つ。私、北川 千優希(きたがわ ちゆき)書籍出版社の企画広報部に勤務する27歳。
よその会社ではそろそろお局世代なんだろーけど、我が社はわりと年齢層が高いので、まだ若い若いってちやほやされてる。
ま、150cmの身長に童顔なせいもあるのかもしれない…。
「ちーちゃん、デート?」
帰りのロッカーで、私の着替えた服装を見て、先輩が化粧直しをしながら言った。
「違いますよぉ。友達と飲み会です。」
ストレートロングの髪をブラシでとかしながら、明るく答える。
確かに今日はちょっと気合いが入ってるかも…。白の姫キャミに短丈のボレロ、すそゆれスカートで女の子っぽくまとめてきた。アイツも一緒だから……。
♪♪♪♪ ♪♪♪♪
ロッカールームを出たとこで携帯が鳴る。
着信【藤木 健太郎】(ふじき けんたろう)
………アイツだ。
「はい。ケンボー、お疲れ☆」
『おう、今日7時からだっけ?』
「そだよ。」
『わりぃ。ちょっと遅れる。』
「はいはい。仕事ね。みんなに言っとくわ。」
『8時ぐらいには行けると思うから。』
「わかった。がんばってね。」
『んじゃ。』
ケンボーは高校時代からの親友。学校は別々だったけど、なんか気が合って気付けば一番の親友になってた。
最近ケンボーの仕事は忙しい。いつも遅くまで残業して、日帰り出張もしょっちゅう……。体、壊しちゃうんじゃないかって心配になる。
「千優希!こっち!こっち!」
モデル並みにスタイルのいい、親友の片瀬亜由美(かたせ あゆみ)が席を立って手招きする。
「あれ?藤木は一緒じゃないのか?」
「千優希ちゃんと一緒かと思ったのに。」
隣に座ってるのがケンボーの男子高からの友達の、安部(あべ)ちゃんと柊(しゅう)ちゃん。
「8時くらいには来れるって電話あったよ。」
空いてる向かい側の席に座りながら答える。
「あいかわらず、仲いいよな。藤木と北川は。」
安部ちゃんがビール片手にさらっと言う。
「そりゃ、10年親友やってるからね。」
お酒に弱い私は、カシスオレンジ。これ1杯飲み切る頃には限界がやってくる。
私とケンボーの出会いは10年前、高校2年の春―――。
安部ちゃんと柊ちゃんと同じ男子校に行ってたケンボーが、友達に女の子紹介しろって言われて、同じ中学出身だった亜由美を紹介したらしい。
それで亜由美が、高校1年の時同じクラスになってから仲良しだった私を、
「彼と友達と花見することになったから。」
ってなかば強引に連れ出したのが高校2年の春の始業式の午後。
公園に着くと桜吹雪の下で、アイツは空を見上げてた。その横顔がキレイで…時間が止まったみたいにそこだけスローモーションだった……。
当時、失恋したばっかりの私は彼氏はしばらくいらないって豪語してた。
アイツも中学時代に振られてから、彼女は作らないと言い続けていたらしい。だから、お互い【友達】として仲良くなった。
また傷つくのが恐くて、魅かれる気持ちに最初からブレーキをかけた。親友としてやっていこうって思ってた…。
お互い、彼氏彼女がいた時期もあった。
でもなにか違う気がして…。結局ここ3〜4年くらいフリーのまま。失恋した時はケンボーがココアおごってくれて、なぐさめてくれたっけ。
初対面で閉じ込めた想いが、溢れてくるなんて思わなかった……。
10年も経ってから―――。