Island Fiction最終回-3
あの晩、姉様が自分の首を切り裂いた後、姉様の体とカズキの体は重なり合い、一つに解け合っていった。
戦慄の光景はモーツァルトのト短調のようでありながら、ブラームスのピアノ協奏曲のように重厚で優美だった。
カズキという子供は存在しなかった。
姉様の子供は生まれてまもなく亡くなっていたのだ。
あの少年はわたしの意識が作り出した幻想だった。
アザレアを誤認していたのかもしれないし、初めから誰もいなかったのかもしれない。
わたしの記憶領域の浅いところで眠るあの残虐な光景が呼び起こされた。
返り血を浴びたカズキの硬質な男根がイメージとして離れなくなった。
「ふうぅぅん、ううん、はぁぁ……」
わたしは知らず知らずのうちにショートパンツのボタンを外し、中へ手を忍ばせていた。
すでに蜜が溢れ出ていた。
わたしが淫乱であることは認めるけれど、色情狂ではなかったはずだ。
何もないところで濡れたりはしない。
なのに色欲が湧き上がる。
「また発作ですか?」
トウゴウが心配そうにわたしの体を支えた。
「うぐぅぁぁ、あぁふうん、くぅ、ああぁぁ……」
苦しくて、掻きむしるように乳房を揉みしだいた。
わたしはアザレアの洗脳により度々発情するようになっていた。
ふとしたことで精神のバランスが崩れ、ペニスの映像が頭から離れなくなってペニスのこと意外には何も考えられなくなるのだ。
当然、発作は時と場所を選ばなかった。
大抵は近くのトイレへ駆け込んだのだけれど、混んでいたり、トイレそのものがなかったり、他に適当な場所が見当たらないとき、どうしても我慢できなくなってしまってその場で処理することがあった。
ファミレスでの食事中に発作に見舞われたことがあった。
その時も場所を変えている余裕がなくてトウゴウに手伝ってもらっていると、隣の席の主婦に咎められ、怒鳴られ、罵られた。
危うく警察へ通報されそうになった。
移動中の新幹線では、たまたまトウゴウが席を外していて、仕方ないので独りでオナニーしていると、通りすがりのサラリーマンのオヤジに気づかれて、臭い息を耳元に吹きかけられながら散々に悪戯された。
「大丈夫ですか?」
トウゴウはマゾヒストだ。
ペニスを求めて錯乱する女を目の前にしても、襲いかかって勃起したペニスを押しつけるというような発想にはならない。
M女とM男。
噛み合うはずがない。
本来、人はSとMの両方を内包しているもので、姉様はこの男に合わせることには抵抗がなかったのだろうけれど、残念ながらわたしは不器用な女なのだ。