ピリオド 終編-32
(アイツ…何処に行くんだ?)
オレは慌ててリビングに戻り、手紙の続きに目をやった。
わたし、大阪に行くから。わたしの友人が大阪で美容師をやっててね、住み込みで雇ってくれるって。
わたし、美容室と美容学校を頑張って、美容師になるから!
(知らなかった…そんなこと)
──亜紀が遠い存在になってしまう。
そう考えると、いてもたってもいられなくなり、オレは玄関を飛び出した。
「なんで、こんなに混んでんだッ!」
最寄りの駅までのわずかな距離。前に並ぶ車の列に、オレは苛立つ。
「くそッ!いくら日曜でも、こみ過ぎだ」
大半の車は駅の傍にあるショッピングモール目あて。いつもなら10分の距離に、20分は優にかかっちまった。
「くそったれッ!」
構内へと走る。大阪なら、新幹線と特急の下り2本だけだ。
亜紀の性格からして新幹線は無い。短時間の移動より、のんびり行くのが好きだから。
オレは、特急のホームへと急いだ。
6番ホーム。階段を駆け降りると、列車はすでに止まっていた。
(亜紀…亜紀、どこだ…?)
もう、居ないかもしれないのに、オレは車両の窓から中を覗いた。
当然、それらしい姿なんか見当たらない。
「…そんな…このまま、終わりなのかよ…」
やがて列車は、けたたましい音を残して走り始めた。
誰も居なくなったホーム。オレはベンチに腰掛けた。
(結局、何の役にも立てずに終わりか…)
身体から力が抜けて、ため息が出た。
「情けねえや」
ベンチを立とうとすると、足音が近づいた。
「やっぱり来たんだ」
「あ…」
振り返ると、キャリー・バッグを持った亜紀が立っていた。
「あ…姉さん、何で?」
「近くでお昼摂ってたの。むこうには、夕方に着けばいいから」
そう云って笑いかける。オレの中で、安堵と苛立ちが入り交じった。