『屋上の青、コンクリートの灰』-1
石井とはあんまり仲良くなかったと思う。
むしろてっきり嫌われてるものだと僕は思っていた。
なのになんで、なんでこんなことになっているのか。
まったく分からない。3年たった今でも、全然まったく。
「なあ、ちょっと話したいことあるから一緒に帰んねえ?」
ホームルーム後の教室内。僕はラクガキだらけの机と椅子を下げながら、一瞬のあいだ固まってしまった。
2年になりこのクラスになってから早二ヶ月、少しずつ新しい空気にも慣れてきた。だけど元来の人見知りも手伝ってか、まだあまり話したことのない人たちもいる。
その『人たち』の中に、石井は入っていた。
自分と違ってスっとした高い背、もう変声を終えた低くよく通る声、短めの黒い髪ですら似合う顔立ち。……を、だるそうに崩しては授業中寝ているのをよく見かける。つまらない話でうつらうつらしてしまっても、眠っちゃダメだと自分を叱咤している僕には、なんだかその潔い姿はうらやましくもあった。ただうらやましいなと思いつつも、さえない僕とは関係のない人間だと感じていた。
その石井がいったい、僕になんの用があるというのか。
なにを言われるのか検討もつかなかったけど、僕は二つ返事で頷いてしまっていた。
クラスでも目立つタイプの石井の誘いを断る勇気は、とてもじゃないけど僕にはない。
だからと言って普段ろくに話したこともない石井と、一体なにを話せばいいかも検討がつかなくて、帰り道僕は、『うん』と言ってしまったことを後悔しながらも、一言も喋れずにいた。
石井も誘ったはいいものの皆目なにも話してこない。
ただただ沈黙が流れて、ただただその沈黙に耐え切れなくなってくる。
息が詰まって溺れそうだ。
呼吸の仕方も忘れてしまう。
僕は窒息に困り果てながら、アスファルトと自分の靴を、ひたすら見比べていた。
どうしようか。なんか喋ってくれればいいのに。それとも僕が喋りかけるべきなんだろうか。
『用ってなに?』って訊けばいいだけなのに。なんでこんな時に限って喋りかけれないんだろう。
いや、言って楽になろう。よし言う言う、言うぞ。
「よ」
「……あのさぁ」
ボソリと、焦る僕とは対照的に気怠けに前を向いた石井が、言葉を発した。
そこからまた間を置かれるともう、僕は聞かずにはいられなかった。
「な、なに……?」
いったいなにを言われるんだろう。
金貸せ、とか?まさか。僕お金ないし。中学生の小遣いなんてたかが知れてるし、ただでさえ寂しいサイフの中がこれ以上寒くなるのは嫌だ。
それにこんなきまずい雰囲気のカツアゲがあるか。
ああでもどうしようそんなこと言われたら。