『屋上の青、コンクリートの灰』-4
石井の殺風景でなにも飾り気のない部屋。
そこでさっぱり使った形跡のない石井の教科書と僕のノートを広げ、例のごとく僕と石井はテスト前の勉強会を開いていた。
でも、未だかって勉強に専念したという感覚がない。大抵ほかのことに意識が移って終わりになってしまう。
それに僕がちょっとやる気を出したって、石井はいつも途中から雑誌を読んだりそのまま寝てしまったりと、あの時僕に勉強を教えて欲しいと言った人物の態度とはとても思えない。始めたばっかりの今だって、数学の公式をつまらなそうに睨んでる。
「飽きた」
きた。先に投げ出すのはいつも石井の役目。
決まって僕はそれをなだめなくちゃいけない。
「もうちょっと頑張れよ」
「ムリ。出来る気がしねーこんなもん。まじめに飽きた」
「そんなの……俺だってそうだよ。でもやるんだろ。石井は飽きっぽすぎるよ」
「おまえは真面目すぎなんだよ。その内ぐつぐつ煮詰まるぞ」
「悪かったなっ」
なんだよ人がせっかく教えてるのに。
「けなしてるんじゃねえよ別に」
「……ああそう」
むくれた僕は、そのまま石井にそっぽを向いた。体育座りのような格好でうずくまる。
たとえ石井がそういうつもりじゃなかったとしても、石井が言ったことは僕が常日頃気にしていることだ。こんな性格僕だっていやだ。
僕だって石井みたいになれたらと思う。でもそれは無理だ。悔しくて情けなくて、ぎゅうと歯を食いしばった。その強張った背中が、急にぐらりと揺れた。僕の背中を石井が足で押した。
そのまま足でゆさゆさと揺すられる。
「越智」
僕は返事をしない。
「おーち。越智くん、越智さん、越智サマサマー」
馬鹿にしたような言い方に腹立ちを煽られて振り返る。
「なんだよっ……!」
「ほら、こっち来いよ。怒んな」
腕をつかまれぐっと引き寄せられた。そのまま無理矢理石井の隣に座らせられた。
頭をくしゃくしゃと撫でられる。
「越智」
上目で石井を見上げる。
犬猫にでも向けるような顔だ。僕の耳をつまみながらやさしく笑ってる。普段の石井からじゃ想像できない程にやわらかい表情だ。
そんな石井を見せられると、先程とは違う苦しさが僕を襲う。
なんでだろうか。意味もなしに石井は僕の名前を呼んだりする。
石井はスキンシップが好きだ。
それはまるで恋人にするようだと、僕はたまに思う。
「明日でもいいだろ。ベンキョなんか」
「まあ、そうかもしんないけど……あ、ダメだ明日はモンちゃんとCDショップに行くんだった」
「モンちゃん?……元谷と?」
「うん。明日発売だから行くぞって」
「…………んだそれ」
途端に石井の機嫌が悪くなる。
頭にあった手も、モンちゃんの名前を出した瞬間に離された。
「別に明日じゃなくてもいいだろ」
「だって明日発売なんだ」
「おまえがついてく必要もねえだろ」
「俺も聴きたいから、モンちゃん家でそれMDに落としてもらうんだ」
石井の眉間の皺がさらに増す。
こんな時の石井はものすごく恐い。