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『踏切の幻』
【ボーイズ 恋愛小説】

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『踏切の幻』-6

「今助けるから!」
 こっちへ走ってくるけど、その瞳はまるっきり僕なんか見てない。
 ただ、顔を真っ青にして、別人みたいな形相で走ってくる。
「ボクを独りにしないでよ、おねがいだから、独りにしないでよ!」
「サキトッ」
 サキトは全く僕が見えていないみたいだ。呼びかけても、僕なんかいないみたいだ。
 ただ、彼にしか見えない何かがあるみたいで。
 彼の腕を捕まえようとしたけど、あと少しの所ですり抜ける。
「サキ……………」
 もう一度彼を呼ぼうとした。でも、呼べなかった。


 サキトが、遮断機を飛び越えたから───────。


「うわあああぁぁぁぁッッ!!!」

 彼の背中に、僕は絶叫した。
 その瞬間、目の前が真っ暗になる。
 絶望感、恐怖……………あらゆる闇に苛まれ、僕は意識を手放した。


* * * * *


 僕が目を覚ましたのは、病院のベッドの上だった。
 踏切の前で倒れていたのを見つけられ、救急車で運ばれたらしい。

「サキトは?」
 迎えに来た母さんに引き取られ、僕は母さんにサキトの事を尋ねた。
「サキトって、友達?」
「うん、電車に……………」
 其処まで言葉を続けて、背筋に冷たいモノが走った。

 あのシーンがフラッシュバックする。
 あの腕を掴めなかった空虚な感覚と、僕なんか見えてない狭い背中。
 ただ、何もない踏切だけ見据えて。白い頬を紅く染めて全速力で走って。
 サキトは、僕の目の前で……………。

「さあ……………踏切にはスグルしかいなかったみたいだけど」
 母親は訝しげに僕を眺めてそう云った。
 そんな筈はない。踏切で人身事故が起きた筈なのに、判らない筈がない。
 もしかしたら、僕が傷付かない様に嘘を云っているのかも知れない……………。


* * * * *


 僕はあの踏切に行ってみた。
 彼と初めて出逢った夕暮れ時。
 いつもは学校帰りで、夕陽を背にT字路から歩いてくるけど、今日は逆。僕の家の方角から歩いてきているから、僕の影は後ろ側に長く伸びる。
 あの時とは全部逆だ。夕陽の位置も、影の位置も、景色も。
 坂を上りきったところで警鐘が鳴りだし、遮断機が下り始めた。
 僕は遮断機の前で止まり、辺りを見回す。花束も何も、其処には供えられていな
かった。
 勿論、サキトどころか人の気配すらしない。ただ蝉が騒いでいるだけで。
 通り過ぎようとした草むらから、雀が数羽飛び立った。


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