月夜と狼-3
廊下を歩いて教室の前を通る時、窓の向こうからなんかこっちの方見てる気がするんだよな。
なんとなくだけど。
髪が長くて、おっとりしててすごく優しい。
笑うとエクボができて可愛いんだ。
川村と咲夜はどういうわけか仲が良いから、少しずつ情報は引き出してる。
咲夜のガード固くてなかなか難しいけど。
アイツ、ヘンなトコで友達思いで、俺をシャットアウトしたがってるっぽい。
俺はそんなに危険かよ?
なんで、あんなコが全然性格が真逆の咲夜と連んでるのかわかんねえ。
ともあれ。
今日は告るぞ。っと。
放課後。
「あ、高遠ー。ちょいまち」
咲夜が話しかけてきた。
ああ、メンドクサイ。俺、川村を捜したいし。
ここも逃走。
「あとでなー」
と、教室出て3組の教室をのぞいた。
川村はいなかったけど、カバンはまだ机の上にあった。
なに、川村ってもしかして誰かにチョコあげに行ってる?
でも、もしかしたらフラれてかえってくるかもしれないし。
そしたら、ちょっとは考えてくれるかも?
いやいや、川村をふるヤツっているか?
そもそも、チョコ渡しに行ったとも限らないし。
ドクン。
3組の教室の前でぐるぐるとしょーもないことを考え込んでいたら、急に心臓に痛みが走った。
なんだ?これ。
身体の節々が痛くなってくる。
なんだよ?いったい。
「いっ…てぇ…」
歯を食いしばる。
そのうち薄れていくだろうと思った痛みは増すばかりだ。
廊下で倒れるなんてかっこわりい。
でも真っ直ぐ立っていられねえ。
俺は壁に手を付きながらトイレに入って便座のフタの上に座った。
落ち着いたら保健室に行こう。
腕も脚も背中も軋むように痛む。
俺は身体を丸めた。
「ちくしょ…なん…なんだ…よ」
頭を抱えようとした手が視界に入り、俺は愕然とした。
手はすごい勢いで変形していき、毛深くなっていく。
コレは…もう、人間の手じゃない。
だって、指が…。ニクキュウが……。
こんな病気、あり得ない。
便座に座っていた俺の身体は滑り、床に横たわる。