月夜と狼-11
「ごめん…。俺、お前が川村のこと好きなの知ってたのに」
「はい、やめやめ。俺がますますミジメになるだけだろうが。そんで、どうよ、お前は?」
「どうって…」
中島は、なんだか軽くパニクってて。
「浩太に悪いとは思ったけど、俺も川村気になってて……すまん!」
「だから、あやまんなって。よかったじゃんか」
あれ?
ほんと、どうでもよくなってるんだよね。
それどころじゃなかったせいかな?
結局、川村には会ったけど、ひどくビビってたしなあ。
俺は中島を落ち着かせるべく『よかった』を連呼して。
多分、中島は納得できてないだろうけど。
そのモヤモヤ感、俺よくわかるよ。
昼過ぎの俺みたい。
しかたないか。
しかたないよな。
「おじゃましましたー」
中島は家の奥に向かって挨拶をした。
コイツ、礼儀正しいんだよな。義理堅いし、良いヤツだよ。
川村は見る目あるよ。
「あ、高遠!」
玄関に出たら。咲夜がいた。
「およ。」
「アンタ、昨日どこ行ってたのよ?カバンおいたままどっかいっちゃうし、今日は休んでるし」
なに?心配してたのかな?
「ああ、頭痛くて休んだ」
「使ってない頭が痛むとはねえ」
これ見よがしにため息をつかれた。
「お前、何しに来たんだよ」
憮然として応えてみせたが、いつもほど腹が立たない。
「昨日はチョコ、もらえなかったんでしょ。可哀想だから、これあげる」
金貨チョコを三枚。梱包なし。
「中島くんにもあげるね。ついでだから」
ついでってなんだ?
そんな強調しなくてもいいじゃん。
咲夜は中島にも金貨チョコを三枚渡した。
「あ、ありがとう」
中島はさらに複雑な顔をしてた。
中島と川村は両思い。
川村と仲のいい咲夜がそれを知らない筈はない。寧ろ、積極的に応援していたと思われる。
義理チョコを強調するつもりで、咲夜の『ついで』発言になったのだろう。
咲夜が密かに中島を好きだった、ってセンはない。
誰にも告げ口のできない狼に嘘をつく必要はないから。
そして、状況の見えない中島は
「じゃ、俺帰るわ」
と、ちょいちょいと手を振った。
あ、コイツ逃げやがったな。
俺には廉価な金貨チョコがちょうどいい。
こいつなりになぐさめてるつもりなのかもな。