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恋愛小説
【純愛 恋愛小説】

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恋愛小説(4)-4



七月の終わり頃に入ると大学は、祭り前のソワソワした感じが漂い始める。高校や中学のそれとは違う、桁違いに長い夏期休暇が控えているのだから、やぶさかではないだろう。皆長い休みをどう過ごすのかが頭のキャパシティの大半を占めていて、寂しい夏を過ごすのは御免だと我先に予定を組んでいく。僕の所にも数多くの誘いが来た。ほとんどがサークル関係だったが、それでも多くの日程が埋まる程だった。
「先輩。先輩は夏季キャンプは参加するんですか?」
僕が所属する天文サークルには、夏季キャンプと言う名の修学旅行的なものがある。一般の修学旅行とは似て非なるものなのだが、修学しにいく旅行なのだから、言葉としては間違っていないと僕は思っている。しかし内実は出会いサークルである我が天文サークルとなれば、それは顕著に目的を変える。つまり、夜の星空をみて、女の子と仲良くなろう旅行なのだ。
「参加するよ。一応会計だからね」
「本当ですか!?よかったぁ」
「ん?」
「いや、私も参加するんですけど、まだ知らない人とかもいるし、私の友達は行けないって言うから心配してたんです。あぁ良かった。先輩が居ないと、お話しできるひと誰もいなかったんですよ」
「それは良かったね」
「先輩、当日が楽しみですね?」
「そうだね。そうかもしれない」
「かもしれない?」
「いや言い直そう。楽しみだ」
本心を言えば、楽しみ半分、不安半分、といった所だったが、僕はそれを口にしなかった。不安という二文字を言葉で表してしまうと、本当に良くない事が起こってしまいそうで怖かったのだ。自分が臆病だなんて思った事はないけれど、僕は臆病なのかもしれなかった。それも卑怯者という側面を携えている、随分と質の悪い臆病者だ。




本日は快晴です。翌日、翌々日まで真っ赤な太陽をマークをつけて、天気予報士が笑顔でそう言っていた。いくら予報を外しても潰れる事はない気象庁に、僕はこの時ばかりは感謝した。どんなに酷い的中率を誇っている天気予報でも、降水確率0%と言い切ることのリスクぐらいは知っているはずだ。たとえ知らなくても、今日ばかりは晴れ間が続くと僕は信じた。そして窓の外の空には見事な青空が広がっていた。

この年の夏季キャンプは参加人数が少なかった。総勢で15名。男性が9名、女性が6名という割合だ。うち新入生はその半数。男性が4名で、女性が3名だった。この3名の中に彼女の姿を見つけて、僕は心のどこかでほっとした。ほっとした?僕は僕自身にそう問いかけた。何にほっとしたって言うんだ。

大型のバスに揺られて、一行は深い森の奥を目指す。くねくねとカーブが続き、道が狭くなっているのが前方で確認できる。木村さんは神経を尖らせているのかも知れない。レンタルのバスで山中の道を運転するなんてこと、僕には到底できそうにもない。
「ちーくぅん」
「ん?どうしたの千明?」
「酔ったぁ」
「大丈夫?」
「大丈夫、じゃ、ないかもぉ」
「ちょ、ちょっとまって!今ビニール袋を用意するから!」
「アカン、もう、吐……く……」
千明がそこまで言ったところでバスが止まった。どうやら着いた様だった。止まったと同時に千明は駆け出した。僕が知る限り、今までの千明で一番早い動作だった。そのままのスピードで道端まで駆けていき、素早くうずくまると、盛大に嘔吐した。バス内でお菓子を食べていたのが良くなかったのだろう。ぐったりとこっちに帰ってくる千明の顔は、フルマラソンを走り終えたみたいに疲れきっていた。
「はい、お水」
「うぅ、ありがとぉ」
「大丈夫?歩ける?」
「しばらくは無理やぁ」
こうして二年目の夏季キャンプの、最初にして最後の離脱者が登場した。目的地に着いて、五分以内の出来事だった。


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