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恋愛小説
【純愛 恋愛小説】

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恋愛小説(4)-3

「ねぇ、どうでもいいんだけど、君はいったい、何をしに来たのかな?」
「えっ?」
「僕は本を読んでいるんだけど、君は何かを書いている様だし、お互い邪魔にならないかな?と僕はそう思うんだ」
「私、邪魔でした?」
「いささかね」
僕はいらだちをなるべく表に出さずにそう言った。僕はどうしてこんなにもいらだっているのだろう。僕は僕自身のいらだちに思い当たるものが無かった。というより、僕は普段からそういった感情とはあまり縁のない人間だったから、いささか面を食らっていた。この心のもやもやとした感情は、一体なんなのだろうか。少なくとも千明といる時に、こんな感情は抱いたことがない。不安や恐れ?それに近いものでありながら、全く違う性質を持っているようにも思える。
「先輩、なにか怒ってますか?」
「そう見える?」
「いえ、すみません。お邪魔しました」
彼女はそう言って、来た時と同じ様にするりと立ち上がると、何も言わずに去っていった。僕はそれを無言で見つめ、背中が見えなくなったことを確認してから、読書に戻った。全くと言っていい程、内容は頭に入ってこなかった。

次の日も同じ様に読書をしていると、また彼女は現れた。僕の隣に座り、差し障りのない話をし、ノートに向かって何かを書き、話題が無くなると音も無く去っていった。その次の日も、またその次の日も。
僕は意を決してこう言った。
「ねぇ、君は最近、毎日の様にここに来て何かを書いているけど、一体何をしようとしているのかな?」
「えっ?そ、その、迷惑でしたか?」
「いや、迷惑とかそんな話をしているのではなくて。彗星の様にやってきて、少し話して、何かをちょっとだけ書いて、そして去っていく、っていうのを何日もやられると、さすがに不思議でね」
彼女は紅い縁の眼鏡をしていた。髪は長く、胸当りまですらりと伸びていた。何冊かのノートを両手に抱え、耳に銀色のピアスをしていた。時計をしていて、僕はそれをオシャレだと思った。
「い、いえ。特に理由ってものはないんですが」
「理由はない?」
「や、先輩と仲良くなれたらな、とそういう気持ちはありましたが」
「それが決定的な理由ではない?」
「……そうかもしれません」

そして今日、彼女は現れなかった。僕は同じ様に本を読んでいるつもりだったのが、それがほとんど理解出来ていないことに気づいていた。ちっとも集中力というものが湧いてこないのだ。僕はしきりに入り口の方へ視線を送り、彼女がいない事を確認して、その度に舌打ちをした。なんだこれは。まるで僕が彼女が訪れるのを期待しているみたいじゃないか。そうは思ってまた活字の意味を汲み取ろうと僕は努力するのだけれど、一向にその成果を上げることは出来なかった。僕は混乱していた。しっかりと混乱する脳を自覚しつつ、また入り口に眼をやるのであった。

それからの僕は酷かった。大学構内のどこで何をしていても彼女の姿を探し、その自分の行動にイライラした。千明と一緒にいようがいまいが、僕は言葉の端々で視線を左右に動かし、彼女の足跡を探した。サークルで彼女の姿を見つけると嬉しく、いつも対角線上に位置取り彼女の顔を盗み見た。彼女と話す内容は大したことでは無かったけど、後々にそれが嫌に鮮明に蘇ることが多くあった。言葉の一音一音をいちいち覚えている自分に、あきれつつそれを止めることが出来なかった。彼女が僕以外の男性と楽しそうに話しているのを見ると、忌々しさを爆発させ、その男を絞め殺してやりたい気持ちになった。



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