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『雪兎-YukiUsagi-』
【ボーイズ 恋愛小説】

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『雪兎-YukiUsagi-』-3

「クロ、これくらい?」
 雪だるまの土台を固めながらユキトが俺を見た。
「あぁ。頭載せるから手ぇ貸せ」
「うんっ」
 俺の作った丸い大きな雪玉の端にユキトが走ってくる。

「持ち上げるぞ。せーの」
「よいしょっ」
 二人で持ち上げた頭が身体の上に載り、どうにか雪だるまが形になってきた。
 ただ、すこし頭がいびつで傾いてる。表面を押して固めながら整えた。

「すごいね。ボクの背くらいおっきいよ」
 ユキトは嬉しそうに周りを飛び跳ねた。
 雪だるま一つでこんなに嬉しそうな顔をされたのは初めてかも知れない。

「ユキト、此処にいられてよかった。クロに逢えてよかった」
 木の枝で目を作りながら、ユキトは云った。
「なんで此処にいるのか判らなかったけど、きっとクロとこうやって遊ぶために此処に来たんだ」
「え……………?」
 素直すぎるユキトの気持ちに、俺はつい手を温める動作を止めて奴に見入った。
「クロと逢う為に、ボクはあそこにいたんだね……………」

 ユキトは雪だるまに忙しくて、俺を見る事はなかったが、俺だけはユキトから視線をはずせなかった。
 そんな事、今まで生きてきた上で一度も云われた事がない。
 判ってる。ただユキトが何故だか異常に世間知らずで、単純すぎるからそう云えるんだって事。
 それでも……………。

 クロがぼんやりと思慮に耽っていると、ユキトは雪だるまによじ登っていた。

「ぁ、ユキト、危ないぞ」
 ふと現実に引き戻され、俺は注意を促した。
「へーきだよっ………わわわっ!」
 俺が云ってる傍から、ユキトは足を滑らせた。
 丁度こっちに落ちてきて、咄嗟に受け止めきれずに俺も雪原に倒れ込む。

「うゅ………ごめんね、へーき?痛くない?」
 仰向けに倒れたクロの上で、ユキトは彼の頬に手を伸ばした。
 大きいセーターから小さな手が覗いていて、それが俺の頬に触れる。
「腰打ったけど、大した事ねえから。ユキトは……………?」
 クロが尋ねようとした時、ユキトは倒れ込む様にクロの上に寝そべった。

「クロはあったかいね………心臓の音が聞こえるよ」
 ユキトは小柄な身体をクロに預け、胸元に耳をぴったりつけて目を閉じた。
「ユキト……………」
 俺はユキトの背中に触れた。そして、はっとした。
 コイツ、このセーター以外何も重ね着してない。

「お前、こんなカッコで寒いだろ」
 半ば怒るような調子でクロは云った。
「ううん。あんまり暑いとダメ。でも、クロの傍は あったかくて気持ちいい」
 ユキトは悠々とそんな答えを返した。
 セーター越しに触れる肌が体温を伝えない。
 今度は直に掌で奴の頬に触れてみたが、やっぱり冷たかった。
 本当にユキトは生きてるのかって、少し不安になる。

「ごめんね、クロ。ありがと。あんまりあったかいとボク、無くなっちゃう」
 ユキトはその手を握り返すと、ひょいと俺の上からどいた。
 身動きがとれる様になったクロは身体を起こし、立ち上がる。

 ユキトって何なんだろう。
 出逢った時からよく判らない事ばっかりだ。

「……………ボク、大事なモノがいっぱいできたよ」
 ユキトが登って崩れた雪だるまの上に、奴は腰掛けた。
「ユキトって名前。クロ。クロと雪だるま作った想い出。クロにもらったあったかい感じ。色々」
 彼はぱたぱたと袖の雪をはたいた。
「クロは、色々大事なモノできた?」
「…………え?あぁ、まぁ……………」
 急に真っ直ぐな目で訊かれ、身体の雪をはたいていた俺は曖昧なまま頷いた。
 それでもやっぱりユキトは気にならない様で、空を見上げる。

「ボク、最初は何も持ってなかったから寂しかった。でももう大丈夫。クロが色々くれたから」
「別に……………俺は何もしてない」
 ユキトが云っている言葉がそのまま信じられなくて、俺は呟いた。
 実際、俺はユキトに感謝される程の事はやってないのだ。
 それなのになんか……………感謝の言葉を全部受け止めるのは悪い気がした。

「クロが何かしようと色々考えなくても、クロはボクに大事なモノいっぱいくれたよ。だから、ありがと」
 ユキトは屈託のない笑顔を浮かべて微笑んだ。


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