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『雪兎-YukiUsagi-』
【ボーイズ 恋愛小説】

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『雪兎-YukiUsagi-』-4

「それじゃ、そろそろ帰らなきゃね」
 ユキトは崩れた雪だるまから降りた。そして俺の手をぎゅっと握る。やっぱり冷たい手だ。

「……………気が済んだのか?」
「うんっ。ボクの中、大事なモノでいっぱいになったから」
 ユキトは今までで一番倖せそうな笑顔で頷いた。
 読書ばかりで家に閉じこもりがちだったけど、俺でも誰かにこんな顔させられるんだな。
 そう思うと、やっぱり俺もなんだか少し倖せな気分になれた。


 静まり返った夜道を、二人で手を繋いで帰った。

 * * * * *

「ありがと、クロ。すっごく楽しかったよ」
 門の前でユキトは手を離し、微笑んだ。
 離れた奴の手の感触が名残惜しくて、離れていく瞬間、一瞬だけぎゅっと強く握った。

「お前はこれからどうするんだ?」
 結局のところ、帰る場所なんか知らない俺は訊いてみた。
「んー、帰るよ。独りで帰れるから、クロはこれからすぐ寝て」
 ユキトはにっこり微笑んで答える。
 帰る場所があったのか。それならそう心配する事はないだろう。

「送ってやるけど」
「ううん、へーきだから。クロはもう休んで」
 そうは云ってやったが、ユキトは頑なな態度でそれを拒んだ。
 まあ、無理に送っても仕方ないだろう。

「大好きだよ」
 ユキトは紅い目で真っ直ぐ俺を見つめた。
「ユキト、クロが大好きだよ。ずっと好きだよ。すごく好き……………」
 そして彼は、クロの背に腕を回し、抱き付いた。
「ユキト……………?」
 俺はユキトの表情を窺おうとしたが、俺の胸に顔を埋めているせいで見えない。
 小さな肩が震えていた。泣いているんじゃないかと、不安になる。

「……………俺もユキトが好きだから。な?」
「うん……………」
 帽子越しにユキトの頭を撫でると、奴は小さく頷いた。
 すると、大人しくなったユキトは俺から離れた。
 暗闇だし、奴の目は元々紅いしで、泣いていたのかまでは判らない。

「バイバイ、クロ」
 ユキトは出逢った時のあの笑顔を浮かべた。
「ああ、じゃあな」
 俺はそう云うと、奴に背を向けた。

 一歩一歩、ユキトから遠離り、家の玄関へと近付いていく。

 玄関のドアノブに手をかけた時、俺はもう一度奴を見ようと振り返った。
 ユキトはまだ門の所にいて、腕を千切れるんじゃないかと思う程に力強く振っていた。

 俺はそれに小さく手を振り返すと、玄関をくぐった。


 そう云えば訊き忘れてたな。
 また逢えるかどうか……………。


「……………バイバイ、クロ。………さよなら……………」

 クロの姿が家の中に消えてから、ユキトの頬を冷たい雫が伝い落ちた。

 * * * * *
 * * * * *

 俺が起きたらもう時計は12時を回っていた。
 今日は中学校も休みでのんびり出来るから、別に困る事はないが。

 ぼんやりと昨日の夜の事を思い返す。
 ユキトと出逢って、クロなんて名前つけられて、公園で遊んだ事。
 全部夢みたいな感覚だった。

 またアイツ、何処かにいないかな……………。
 そんな事を考えながら、俺は玄関を出た。


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