ほたるのひかり、まどのゆき。-9
◇ ◇
数分後。
とりあえず俺はさっきまで考えていた、大学の事とか遠距離恋愛の事とかを先輩に話した。
適当に相槌を入れながら聞いてくれていた先輩の第一声は、
『あっはは!なんで今からそんなに先の心配をしてるのよ。あなたらしくないわねぇ』
っていうものだった。
ほぼ予想通りというか。
「そっすよね。でもなんか、先輩が卒業しちまうんだ――って考えたら、すげー寂しくなっちゃったんで」
『……バカね、って言いたいところだけど。うふふ、可愛いから許してあげる』
「可愛いってちょっと……」
『はいはい。文句はまた今度聞いたげるから』
「……………」
完全に子供扱いである。
なんとなく、男の子としては納得いかない評価。でもまぁ、今それを追求したところでどうなるものでもないし――とりあえず置いておく。
『ん、でも……そっか。ちゃんと考えてくれてるんだね、あなたは。私達の、これから先の事も』
不意に、とても――とても優しい声で先輩が呟いた。
『真剣に考えてくれたから――ホントに寂しく思ってくれたんだよね』
「……当たり前ですよ。俺にとって、先輩は世界でたった一人の――本気で好きになったヒトなんですから」
『ん、……私もよ』
言ってから、お互いに照れてしばらく沈黙。
ややあって、先に口を開いたのは先輩だった。
『じゃあ、さ。あなたのその悩みに一つ提案していいかな?』
「提案……ですか?」
『うん。でもこれから言う事は多分、すっごくワガママな事だと思うの』
「…………」
先輩がワガママを言うなんて、珍しいっすね――そんな風に茶化す事はできなかった。ただ耳を傾ける。
しかし、次に先輩が口にしたのは提案ではなく……質問だった。
『あのさ、蛍雪の功……って知ってるかな?』
「へ?ケーセツノ……?」
肩透かしを食らった気分で、思わず間抜けな返事を返してしまう。
ケーセツ……けいせつ……あぁ、"蛍雪の功"か。
「さすがに知ってますって。アレですよね?中国の偉い人が、暗い時間には蛍の光とか雪明かりを頼りに勉強してたっていう……」
『そうそう。まぁ正確にはそうやって勉強したから偉くなったんだけどね』
有名な故事だ。卒業式で毎年卒業生が歌ってる"蛍の光"の歌詞の最初もそれが元になってるし。
「それで、蛍雪の功がどうかしたんですか?」
『勉強しなさい』
「……はい?」
なんだか至極普通のお説教を受けた気がして、目が点になる。
『蛍の光、窓の雪を頼りに……まではしなくてもいいけどさ。あなたが卒業式のときに胸を張ってそれが歌えるようになれるくらいに勉強して』
「あの、それは……」
ひょっとして、提案ってその事なんでしょうか。
それはさすがに何と言うか……。
そんな俺のモヤモヤは、次の瞬間霧散した。