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ほたるのひかり、まどのゆき。
【青春 恋愛小説】

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ほたるのひかり、まどのゆき。-10

『それで来年、私を追いかけて来てよ』


「――――え、」

一瞬、時間が止まった。
今……先輩は何と言った?

『あなた、まだやりたい事も専攻したいジャンルも決まってないのよね?』
「……お恥ずかしながら」
『別に恥ずかしくはないわよ。むしろそれを決めるために大学に勉強しに行くんだからさ』
「そういうもんですか」
『うん。……だから』

そこで一呼吸おいて、先輩は告げる。

『もしきっかけがなくて行き先を迷ってるなら――私を理由にしてほしい。私も絶対今年受かってみせるから、たくさん頑張って追いかけて来て。目標があった方が勉強って頑張れるし……おまけにその後、また私と一緒にいれるじゃない』
「それは……おまけにしちゃすごく魅力的ですね」

動機としてはいささか以上に不純かもしれないが――それで頑張れるんなら、誰にも文句を言われる筋合いはない……と思う。
と、そこで先輩は少しトーンを落として続けた。

『でもまぁ……本当に、あなたの人生を左右する大事な選択だから、さ。ここまで言っておいて卑怯な言い方になるけど……ちゃんと自分で選んでほしいの。あなたが進む道を』
「…………はい」
『それでもなんでこんな事を言うかっていうと……えと、まぁ、その……』

なぜか先輩はそこで口ごもり、しばらくして。

『――あぁもう!私だって会えないのは寂しいのよ!学校であなたの進路を聞いたとき、大学の間ほとんど会えないんじゃないかって思って……すっごく寂しかったんだから』
「先輩……」

爆発した。電話越しに赤くなっているのが容易に想像がつく。俺ですら自分が真っ赤だと自覚できるのだから。
そっか、先輩も……同じように思ってくれてたのか。

安堵にも似た気持ちが胸を満たすのを感じながら、でもね、と付け加える先輩の声に耳を傾ける。

『もちろん、来年勉強してるうちにやりたい事とか行きたい大学が見つかったなら、そこに行けばいいと思うわ。その為にも、勉強は無駄にならないから』
「先輩の口癖でしたね。"勉強は、可能性を広げるためにある"って」
『そういうこと』

勉強は、その知識そのものが役に立つ機会は少ないかもしれない。
けど、知識があればその分やれる事の幅は広がっていく。

いつか本当に自分がしたい事が見つかったときに、自分の能力が足りないせいでできない……なんて悲しい思いはしたくないから。
だから人は勉強するんだと、先輩はよく言っていた。

『よく言うでしょ?若い内の苦労は買ってでもしろ、ってさ』
「先輩、一体いくつですか」
『一応あなたの一つ上かしら。……怒るわよ?』
「ごめんなさい」

女性に年齢の話は冗談でもNGらしい。

『まったく……。それで、もう大丈夫そう?』
「はい。ありがとうございました」
『ん。それにしても、君って恋人になってからもずっと敬語よね。なんだか見た目は軽そうなのに』
「いいじゃないっすか。それとも敬語じゃ嫌ですか?」
『んーん、別に。敬語っていうか、ずいぶん砕けた敬語だしね。それはそうと……』


――それからしばらく、俺は先輩と他愛のない話をしてから電話を切った。

ばふん、とベッドに倒れ込んで天井を眺める。



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