ほたるのひかり、まどのゆき。-11
「……追いかけて来てよ、か」
もうちょっとだけ真剣に、進路について考えてみよう。どの道を選ぶにしても。
まぁでも、大好きな女の子にあんな事言われて……燃えない男はいないでしょう。
「――よっと」
起き上がって、俺は。
本棚から赤本を一冊取り出した。10分程かけて、その問題を一通り眺めてみて……。
「………………」
ヤバい。全然分かんねぇ……!
(あと一年。一年でこのレベルを解けるようにならなきゃ、先輩を追いかけられない……のか)
改めて、自分が今どの程度の学力なのか思い知った気分。本当になんとかなるのだろうか?
ふと、先輩との会話が頭に浮かんだ。
(蛍雪の功……か)
ほたるのひかり、
まどのゆき。
そんな僅かな明かりを頼りにしてでも勉強に励んだ熱意は、一体如何ほどのものだったのか。今となっては知る由もない。
(蛍の光……は無いから、俺の場合は蛍光灯だけど)
机の上を白く照らしてくれる人工蛍の光を頼りにしながら――
「一年間。……なりふり構わず、やってやろうじゃねーか」
そんでもって、卒業式で胸はって歌ってやろう。
偉大な先人達に恥ずかしくないくらいに勉強して。
そして、4月になったら――きっと。
▼▼
……一年とちょっと後の、4月。
今日から通う事になる大学の正門前に、もたれるようにして立つ影が一つ見えた。
何も言わずに歩み寄り、その人の――俺を待ってくれていた人の前へと立つ。
見つめ合い、しばし無言。
きっとこの人は、待っている。
……さぁ、言おう。
一年間、この時のためにやってきたんだから。
息を吸って、万感の想いを込めて。
「――お待たせしました、先輩」
最愛なる人への、一年越しの再会の言葉。
返事の代わりに飛び込んで来たのは……ほのかな温もりだった。