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恋愛小説
【純愛 恋愛小説】

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恋愛小説(2)-13

「入ってー。空いてるからー」
「お邪魔しまーす。すみません急に」
「ん。かまわないよ」
雨は結構な勢いで降っている様だ。傘で防ぎきれなかったのだろう、葵ちゃんのあらゆる部分が濡れていた。頭、肩、鞄。僕は一番綺麗そうなバスタオルを取り出し(誤解を招くだろうから言っておくけど、ちゃんと洗ってあるものだ)渡した。小さな声で「ありがとうございます」といいながらバスタオルを受け取ると、疑いもせずタオルを使い飛沫を拭いさっていった。
「雨、きついみたいだね?」
「そうなんですよー。さっきまでそんなことなかったのに、歩き出したら酷くなってきて」
「温かいコーヒーでいいかな?コーヒー以外を言われても、お茶くらいしか出せないけれど」
「あ、ありがとうございます。コーヒー下さい」
居間に葵ちゃんを座らせてから、僕はやかんに二杯分の水をいれガスコンロにかけた。青白い炎がやかんを包む。五分もしないうちに口から汽笛をあげ始めて、僕は火を止めた。カップにお湯を注ぐと豊かな香りがふわりと僕の鼻腔をさいた。
「砂糖はいくつ?」
「あ、じゃあ二つで」
砂糖の二つ入ったコーヒを葵ちゃんに手渡すと、僕は向かいのベットにこしかける。
「でどうしたの?なにか用事?」
「あ、いえ、用事って程のものでもないんですけど」
葵ちゃんは何かを確認するかの様に、コーヒーカップを見つめていた。あるいはそこに話すべき何かが書かれているのかもしれなかった。窓にパタパタと雨が当たっているのが聞こえる。ずいぶんと雨脚はきつくなっていたみたいだ。
「じゃあ聞きます。ひーちゃんは、今、好きな人はいますか?」
突然葵ちゃんがそう言ったので、僕は口に含んだコーヒーを吹き出しそうになった。いつか千明に言われた時みたいだ。
「本当に急だね」
「すみません」
「答えた方が、いいんだろうね?」
「……はい。できるだけ、正確に」
葵ちゃんの眼には意思があった。眼には光がともっていて、力強かった。
「いる。好きな人自体は、確かに存在する」
「……そしてそれは、千明先輩ではない?」
「そのとおり」
パタパタと雨が窓を打つ音が、このときばかりはうっとうしく思えた。雨の音は好きだったのに、何故なのだろうか。それが僕がはっきりと混乱しているからなのだろうか。
「木村先輩に聞きました。千明先輩とひーちゃんが一緒にいる理由を」
「そう」
「明確に教えてくれませんでしたが、先輩はこう言ってました。似た者同士なんだろう、って」
木村さん。あのおしゃべりめ。
「それを聞いて考えたんです。ひーちゃんにも好きな人がいて、しかもそれは届かない恋なのかもしれないって」
「大筋、正解だよ」
「少しは間違っているんですか?」
「いや、訂正しよう。全問正解だ」
葵ちゃんは何かを決心した。すくなくとも僕の言葉で葵ちゃんは決心したように見えた。僕はコーヒーを飲んだ。苦い、でも少しの甘みが僕の口に広がる。僕の心に、不思議な波紋を刻む様に。
「私、ひーちゃんの事が好きかもしれません」
「かもしれない?」
「はい」
「好きじゃないかもしれない」
「はい。でも恐らく、限りなく好きに近い疑問です」
ふむ、といって僕はコーヒーをもう一口含んだ。これはポーズだ。時間を稼ぐ為にやった行為に過ぎない。大丈夫。僕はしっかりと動揺していた。


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