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恋愛小説
【純愛 恋愛小説】

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恋愛小説(2)-12



六月が、僕は好きだった。毎日の様に雨が降り、皆一様にうんざりとした表情をする中僕だけは清々しい気持ちで廊下を歩いていた。窓には朝から変わらず雨音が成っている。断続的な雨が降り始めて、僕はこの一週間まだ一回も晴れ間を見ていない。六月が好きな理由は単純で、僕が雨が好きだったからだ。だからといって晴れの日が嫌いな訳ではない。晴れの日も好きだけど、雨の日はもっと好きだった。雪の日はもっともっと好きだったけど、さすがに熱くなりはじれた初夏のこの頃に、白い恋人を求めるのは野暮というものだ。
雨が好きな事の理由の一つに、出かけなくてもいいという事がある。僕は高校までサッカー部、現在は天文サークルに所属していながら生粋のインドア派だった。べつに外に出かけなくても、家の中でやるべき事はたくさん見つけられる、暇という言葉を知らない人種だったのだ。本を読んでいればいくらでも時間という概念を忘れることができたし、音楽をかければ感覚をそれだけに委ねる術を知っていた。それを十分に出来る事が幸せであることに疑いを持たなかったし、事実、僕はその時幸せだった。
つまり、雨が降ってくれればくれるほど、公然と引きこもりになれる口実になるのだ。誰から連絡がかかってこようと、どんな約束があろうと「雨が降っているではないか!こんな日で外に出てなにかをしようとは無粋だ!」と言っても誰も怪訝に思わないから、雨降りは素晴らしい。もちろん何事にも例外的な人はいる。しかし今回、その例外的な人物が僕の周りに存在しないことが、廊下を歩く僕の歩調をなお軽くさせるのだった。
さて、今日は何をしようか。最近忙しくて溜まり始めた本の山を読破しようか。それともコーヒーでも飲みながらクラシック音楽でも聞こうか。雨の帰り道も楽しみがあれば、うっとおしく思えないから人間とはどうしようもない。今僕の頭の中を占めているのは、帰宅後の過ごし方だけなのだ。

帰宅してしばらく本を呼んでいると、不躾な携帯電話のバイブレーターが僕を襲った。さすがに引きこもりたいからといって携帯電話の電源を切りはしなかったのだが、僕は心の内で舌打ちをした。いい所だったのが尚更僕の心を不満にさせた。
メールの受信ボックスを開くと、そこには橘 葵の文字があった。指をリズムよく動かしメールを開く。
「今からひーちゃんのお宅にお邪魔しちゃいけませんか?話したい事もあるので。良ければ電話ください。待ってます」
雨が外出拒否の口実になっても、来訪の口実にはならない。やれやれ、しかたない。こういう日もある。
電話のベルのは三コールめで葵ちゃんは出た。早い。本当に待っていたのかも知れない。
「もしもし?」
「もしもし?急にすみません。お邪魔してもいいですか?」
「うん、僕はかまわないけど。雨降ってるのにいいの?なんだったら、明日大学で話聞くけど?」
「いいんです、すぐ近くにいるんで。学校ではお話しにくいですし」
「そう。じゃあ気をつけておいで。待ってるから」
「はい。では」
僕は電話が切れたことを確認すると、すぐさま部屋の掃除に入った。男の一人暮らしの部屋は、少しの例外を除いて汚いのだ。散らばっている参考書を一塊にし鞄に突っ込む。散乱して文庫本を本棚にランダムに突っ込む。入らなかった分は大きい順に本棚の上に積んだ。溜まっている灰皿の灰をスーパーの袋にまとめゴミ袋に放り投げる。少しヤニ臭いかも知れない。スプレー式の消臭剤はどこに置いたんだっけ。ベットに敷きっぱなしなっていた布団を畳み押し入れに入れる。その際ベット下にある秘蔵のDVDも一緒に放り込むことも忘れない。簡単に掃除機をかけコロコロを取り出し三周分ほどゴミを取る。脱ぎっぱなしになっていたジャージや靴下を洗濯機の中に隠す。どうせ洗うのだ。隠し場所としてはうってつけだろう。台所に溜まっていた食器を洗う。見た目が良くなればいいのだ。サッと擦ってはサッと流す、まさに流れ作業だ。僕は思いつく限り、そして出来るだけ手早く部屋の掃除を済ましていった。
玄関の靴を並べているときにちょうど部屋のベルは鳴った。居間に戻り、普段からこんなものですよオーラをだせる体裁だけ整えると、僕は何食わぬ顔で声を上げた。


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