恋愛小説(1)-14
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「なぁちーくんが今考えていること、当ててみせよっか?」
僕らは公園のベンチに座っていた。ベンチは冷たくって、無機質で、青かった。
「今ちーくんは、今晩のおかずはピザハットにしよう考えている!な?そうやろ!?」
「惜しいね。ピザーラにしようと考えていたのさ」
むぅーといって千明が横でうねる。頬をふくらせて本気で悔しそうな顔するから、僕はたまらないなぁと思った。
「うそうそ。ピザハットも考えていたよ」
「ホンマに!?やったやったー」
子供の様に感情がコロコロと変わる。僕はそれを見ていると、僕もこんな風に変わりたいと思う。
「あ、ちーくんまた別のこと考えてる」
「ん?そんなことない」
「嘘やん?あれやろ?あの日のこと思い出してるんやろ?」
ニヒヒと横に書けばお似合いかもしれない。千明は僕が知らない表情を沢山持っていた。でもどれもがそれぞれオリジナリティーに富んでいて、それぞれが素晴らしいから、素晴らしい。それが作ったものでないことがわかるから、なお素晴らしい。
「顔真っ赤やで?」
「うるさいなぁ……、赤くなんかなってない」
「あっはは、ちーくんかわい」
僕はうつむいてマフラーの中に顔をうずめた。あの日もこんなに寒かったっけなぁ、と思いながら、ごまかす言葉を探し続けた。
◇
冬がやってきた。
騒がしかった秋が通り過ぎ、冬が猛威を誇りだしたのだ。大学一回の冬。それはもう記録的な寒さを毎日の様に振るった季節だった。
サークル活動は夕暮れから夜にかけて活発になり始める。僕が所属する天文サークルも例外ではない。この日は今シーズンにしては暖かい日で、雪解けで道路がぐしょぐしょに濡れているのが見るからにうっとうしい。
「あっ、ちーくん!おっはよー!」
いつからか千明は僕のことをちーくんと呼ぶ様になっていた。いつ、どの瞬間で?と聞かれても僕は頭をひねることしかできない。本当にいつのまにか、なのだ。
「おはよ。今日も元気だね」
「ん?そうでもないで?」
「どうかしたの?」
「ん。まぁすこし」
この日の千明は歯切れが悪かった。いつも快活な表情が千明のいい所なのだが、その時に限ってはそれも影を潜めていた。