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恋愛小説
【純愛 恋愛小説】

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恋愛小説(1)-15

「なんかあった?」

僕は自分でこう言っておきながらハッとした。人の体調を心配したのなんて、いつ以来だろうか。

「んーん。なんでもない!それよりちーくん!お腹へらへん?学食いこうやー」

「いいけど、まだ11時だよ?そんなに早く食べて、夕方お腹へらない?」

「大丈夫や!これ朝ご飯やし!!ちゃんと昼ご飯も食べるから、心配ご無用ー!!」

「あぁ、なるほどね」

「さ、いこ?」










食堂で日替わり定食を食べ、一息ついたところに木村さんが大きな足取りで一直線にこっちくるのを見つけた。千明は向かいに座っていたから気づかないようだったけど、隣に木村さんが座るのを見ると、見るからに怪訝そうな顔をした。僕が見る限りはじめての表情だった。

「千明ちゃんもう飯食ってんの?それとも遅い朝飯?」

千明はあいまいに「はぁ」とだけ答えると後は黙った。千明にしては珍しい(というより僕ははじめて見た)そっけなさだった。

「あれ?なんか機嫌悪い?あ、もしかしてあれだ、女の子の日だ?」

完全無欠の気の利かなさを発揮した木村さんは、周りに怒気すら満ち始めているのにも気づかず続けて千明に話しかけている。僕は会話(会話と言える程キャッチボールは成立していないが)に参加せず、ただ二人が話しているのを眺めた。この前の件もある。木村さんが千明に好意を抱いているのなら、それを邪魔してはいけない。僕としても気を利かせているつもりだったのだ。

突然、状況は一変した。相も変わらず木村さんは一方的に千明に話しかけていたのだが、なんの予備動作もなく千明が立ち上がったのだ。

「ちーくん、私なんか無性にアイス食べたくなってきた!やしコンビニ行こ!?」

言うが早いか、千明は僕の手をとり歩きだしていた。あっけにとられる木村さんを尻目に、僕らは足早に食堂を去っていった。




「どうしたの千明?」

「さっき言うたやん!?アイス食べたいの!」

季節は冬だ。暖かい日だってことを差し引いても、アイスを食べる様な気温ではない。そして千明は先ほどからなにかに対してイライラしている。千明が何かに対していらだっている所を、僕ははじめて見た。というより僕がいつも見ている千明は、良く笑い、食べ物を幸せそうに食べ、元気が良かった。不機嫌になることなどほとんど無かった。僕の冗談を本気にして、あとで少し頬をふくらます程度のことだった。それでさえ可愛らしいと思える仕草だったし、今のこの状態は異常といっても良かったのかもしれない。

「千明?」

僕は自分が出来る限りの誠実さと愛情を込めて、千明の名前を呼んだ。振り返った千明の眼には、大粒の涙があった。

「アイス食べたい!アイス食べたい!!」

まるでだだっ子のように大きな声でそう言う千明は、それをあと三回続いて叫ぶとあとは黙った。沈黙が当りを支配してる。千明が鼻をすする音だけが校内に響いた。




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