#02 研修旅行――初日-16
「それでね、我が部屋のひとりの愚か者――仮にY君として置こう」
「あの……ウチのクラスの男子でイニシャルがYのヤツって山崎だけなんだけど……」
「珍しいね。山田姓がひとりもいないのか?」
「いるよ。山田優希……女だ」
この男は……。入学試験をトップで受かる成績のクセして、この四ヶ月の間でクラスメイトの名前を覚えていないのかよ。
どんだけ興味がないんだ、他人に――と私は思ったが、そこではたと気が付く。さっき、コイツ、迷いなく鋤原の名前を出していたよな?
もしかして、私をからかっているだけなのか?
相手がそんな疑念に駆られているとは露ほども知らずに岐島は頷く。
「そうなのか……。ま、いまだけはY君ってことで――そのY君がどこで買ってきたのかビールを500ml缶で五本、入手してきた。しかも、地ビールではなく、アサヒのスーパードライだぞ?どうやら、部屋で酒盛りでもする気らしい。つくづく、大馬鹿だね。十中八九ばれるじゃないか。そんなわけで、俺は抜け出したのさ」
確か岐島の部屋はコイツ以外に山崎(Y君)を含めて三人。
きっと、いまの酒量からしてさらに数人の男子が訪ねていることだろう。まあ、確かにバレるだろうな。原則、部屋の鍵をかけちゃダメだし。
そんな風に明日の朝礼で学年主任の怒り狂う姿を想像しているとキュルキュルという高い金属音を私の耳が拾った。
はっと見ると音の発生源は岐島の手の中だった。ペットボトルのキャップのような形の金属を回し開けていた。
待てよ、おい?長方形に口の付いたそのシルエットのソレは私の記憶では――
「スキットル?」
「ヒップフラスコとも言うね」
「おいおい、岐島君?一応、聞くが……中身は?」
「ラム」
――ここで私の選択肢は三つ。
1.突っ込む。
2.ずっこける。
3.有無を言わせず殴る。
私らしい答え……3.
ヒュッと私が伸ばした裏拳を見事に岐島はスキットルを持たない左手で受け止めた。
おのれ、受け止められるとはな。さすがはいかがわしいバイトをしているだけはあるぜ。
岐島が、訳がわからないというように眉間にシワを寄せて訊ねてくる。いや、訳わかんないのはコッチだ!