#02 研修旅行――初日-11
「聞き捨てならない?なにが?」
「イジメを容認することがです!昔、イジメの被害者だったからといって、それだけは私が認めるわけにはいきませんっ!」
「俺が被害者?……傲慢な言い方だね、林田さん。どうやら、俺はきみの評価を改める必要がありそうだ」
「傲慢っ?私がですか!?」
「ああ、傲慢だ。なんだい、被害って?俺は別に害だとは思わなかったよ」
「イジメですよ!そんなわけ――」
「あるね。イジメをする側、受ける側……両者を『加害』『被害』という言葉で表すのは自分が現在、所属する社会のシステムへの理解力の欠如でしかない」
「……。言っている意味が分かりません」
「ときに、林田さん。イジメられたことは?」
岐島のドライブのかかった質問に林田は困惑していた。が、搾り出すように答える。
「…………ありません」
「なら……きみは、きみの言う『加害者』なんだろう」
「そんなっ、失礼じゃないですか!?」
「失礼?イジメる人間の立場は不名誉なことなのか?」
「当然ですっ!」
生真面目VS優等生(偽)。
ふたりのヒートアップする議論は次第に声量も上がっており、まあ、つまりは車内の注目を集め始めた。
仕方なく、私が睨んで人払いをしてやる。
けれども、そんな私の親切には気付きもしないで岐島と林田は続けやがった。
「なるほど。例えば、きみは現在、我がクラスで最もイジメの対象になっているのが鋤原君だということは知っているかい?」
「鋤原君が!?」
「知らない、だろうね。なぜか。それはきみが委員長――つまり、一般的にイジメを看過しないというスタンスを取る側の人間だからだ。きみにだけは気付かれないようにやっているのさ。わかるかい?きみという存在がイジメの要因の一つになっているのさ。きみに見つからない、という設定が加わることにより、より陰湿に、冷酷になる。実際に、イジメの告発の際に、イジメの存在に気付かなかった教師やクラスの委員長、風紀委員をも怨む声は多い。なんで、止めてくれなかったんだ、とね」
「なっ――なら、いますぐに私が、」
「なんと注意するんだ?下手な警告は逆効果だということくらいは当然、知っているだろう?」
「ぅ、く……」
岐島は――それこそ、嗜虐的な――笑みを浮かべて、林田へと言った。