Island Fiction第5話-2
無茶なセックスは妊娠という仕打ちをわたしに与えた。
わたしは堕胎手術というものを経験した。
今まで妊娠しなかったことが不思議なくらいで、わたしには子供が出来ない体なのかもしれないと諦めかけていたので、ある意味安心したりもした。
わたしは心のどこかで、自分への罰を望んでいたのかもしれない。
きちんとした教育も受けず、技術も身につけず、とびきりの美人だったり、スラリとしたルックスがあるわけでもない。
歌がうまいわけでもない。
心に響くすばらしい文章が書けるわけでもない。
人に誇れる物は何一つない。
わたしには生きている資格がない。
不毛な二年間が過ぎたある日、武井は意外なことを口走った。
「クルミって奴とは仲良かったのか?」
思い出を大切に封印していたガラスの器が粉々に打ち砕かれた。
武井はクルミと会ったことがあるというのだ。
姉妹たちはわたしと同様に奇跡的に救い出されて、病院で手厚い保護を受けていたという。
武井がどうしてクルミを知っているのかはどうでもよかった。
わたしはクルミの無事を確かめずにはいられなかった。
そうして連れてこられたのは、コンクリート打ちっ放しの雑居ビルだった。
見るからに怪しげな鉄の分厚い扉があった。
商業ビルにありながら、看板や表札はなかった。
武井は壁のセキュリティー装置に人差し指を当てて暗証番号を打ち込むと、カチッと音が鳴って施錠が解除された。
その時点で走って逃げ出すべきだった。
そうすれば、あのような死以上の凄惨な仕打ちを、地獄よりも陰惨な光景を、目の当たりにせずに済んだ。
どういうわけかその時に限って、変な冒険心と使命感が湧き上がり、クルミとの再会を優先してしまった。
扉の向こうは恐らく、バーだった。
というのも、バーカウンターがあって棚にはそれなりにお酒が並んでいるものの、店全体は病院の手術室そのものだったからだ。
手術室風のバーなのか、バー風の手術室なのか、卵が先か的パラドックスに陥りそうになる。
いずれにしても、まともではない。
武井が言うには、クルミはここで働いているのだという。
どのような仕事なのかは想像できたのであえて訊かなかった。
マネージャーらしき黒服の男がわたしたちを出迎えた。
仕草の一つ一つが店の雰囲気とは似つかない優雅さがあった。
どこかの一流ホテルにでもいたことがあるのかもしれない。
奥へ案内されると、十席ほどある椅子の一つに男が座っていた。
わたしはその場から動けなくなった。
総毛立った。
おぞましい過去が蘇り、わたしをどん底へ突き落とそうとした。