EP.4 お兄ちゃんは超ボロボロ-2
「妹よ、乳首はもっと優しく扱わないといけないんだぞ」
「触らせといて何言ってんのよこの変態!」
「いや、俺はてっきりまたシカトされるのかと思って軽く振ってみただけなんだがな・・・」
赤くなったその部分を切なそうに見つめる兄に、ひかりは何故か胸に痛みを感じた。
妹のする事なら何であっても喜んでいたのに、どうしてそんな顔をするのだろう・・・
そりゃあそうか。吸ってほしい乳首を捻られたら。
「ごほっごほっ、ごほっ」
「ちょ、ちょっと、手で押さえてよ!」
「げほっごほっ、うっく、ごほっごほっげほっ!」
やられたお返しでふざけているのかと思ったが、それにしては咳が激しい。
だんだん咳き込むのが長くなって回数も増えていった。
「だ、大丈夫?」
「なあに、ちょっと、刺激が強かっただけさ・・・ごほっごほっ、けほ」
いつもはイラッとくる胡散臭い笑顔も、今日は何だか痛々しく見える。
「寝てれば治るよ。それより、あまり近くにいるとうつっちまうぞ。俺は大丈夫だから」
あのシスコンがこんな事を言うなんて、どうやら具合は決して軽くはなさそうだ。
それはさておき、ひかりは自分を気遣ってくれている事が照れ臭かったが、少し嬉しかった。
「じゃあ、もう出るけど・・・いなくてもいいの」
「心配するな。お前に迷惑はかけないからさ」
「ついさっき電話させたくせに・・・」
親指を立てながら白い歯を見せる典明にべえっと舌を出して、足早に部屋を出た。
「・・・ふぅ、はぁ〜〜〜」
ドアに背中から寄りかかって、胸に溜まった熱を追い出す様に息を吐き出す。
静まれという思いとは裏腹に鼓動が強く打ち付けてくる。
それは、具合が悪いのに自分の事を心配している兄の優しさに対してなのか
はたまた滅多に見た事が無い兄の弱った姿を見るのが辛いからなのか、ひかりには分からなかった。
(変なの・・・なんで、あんな変態にドキドキしてるんだろ。触るのも嫌だったのに、どうして)
その時、ひかりの耳にか細い呻き声が聞こえてきた。
「ひかり・・・寂しいよ。どうして出ていったんだ。俺にはお前が必要なんだ、いなくなって改めて分かったよ、ひかり、帰ってきてくれぇ」
なんと情けない声だろうか。
たった今吐き出したものとは全く違う種類の溜め息を吐き出し、ドアを蹴飛ばして開ける。
「いなくても平気じゃなかったんですか、変態様」
「だって寂しいんだもん。兄が妹を好きでなぜいかんのです」
「開き直るな!」
自分で言った事をひとつも守れない兄。
体だけではなく精神まで病魔に蝕まれているのだろうか?
「げほ、げほ、うう・・・吐きそうだ」
「無理して起き上がるからだよ。ほら、早く寝てて」
無闇に典明から離れたら動き出して風邪が良くならないし、長引いてこっちまで伝染してはたまらない。
なので、不本意ではあるがひかりは典明を看病する事にした。